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底生生物が豊富な水深5m以浅の浅場は三河湾の面積の22%を占めるが、仮にその1/3が貧酸素水塊によって、上述と同じ水準で底泥と水中との物質収支が変化を受けたと仮定すると、その海域では総窒素(TN)ベースで11tonN day-1の溶出となり、三河湾への流入負荷量を41ton day-1とすると、その27%程度に相当することになる。現在の貧酸素水塊の発生状況では、この数値は過大評価とは言えない。逆に全く貧酸素水塊による影響を受けなければ、水深5m以浅の浅場全体でPONで104tonN day-1、の摂取となり、これは流入負荷量の2.5倍に相当し、三河湾上層の夏季の平均的な基礎生産速度(厳密にはNew production)を33ton day-1とすると、これをもはるかに上回る。TNベースでも33tonN day-1の摂取となり、これも流入負荷量の約80%に相当する除去になる。

この数値モデルによる海水と堆積物間の窒素収支の結果は、現在発生している貧酸素水塊が、残存している浅場の有する水質浄化能力を消失させるだけでなく、浄化の場から、逆に地道な負荷削減の努力が水泡に帰すほどの負荷源に転じさせる危険性を有する規模であること示唆している。浅場の持つ非常に大きな水質浄化能力を有効に機能させるためには貧酸素化の規模を軽減することが必須であり、そのための思い切った負荷削減や貧酸素の影響を受けない大規模な浅場造りが今後重要となる。浅場造成の当面の問題点は効率的かつ最小限の費用で実施するために底生生物が貧酸素水によりへい死しない最低地盤高を海域ごとにどのように決めるかという点であるが、これについても近年三河湾において調査がなされ、一定の成果を挙げており、今後の浅場造成に利用されるであろう。

豊かな生物資源の永続的利用を可能にする"鍵"は「干潟・藻場を含む浅場の保全」にあるが、すでに三河湾ではその浅場すらも危機的な状況に置くほどの貧酸素化がすでに進行し、"負の連鎖"に埋没しつつある状況を考慮すれば、「干潟・藻場を含む浅場の保全及び積極的な造成」と言い換えざるを得ない。ともかく早急な対策が急務である。

 

 

 

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