3. 海洋環境改善技術の現状と課題
3.1 代表的な環境改善技術とその有効性
各地で実施・検討されている環境改善事業における代表的な技術の中から1]覆砂、2]海水交換の促進、3]曝気、4]干潟・浅場造成、5]藻場造成、6]漁獲の6つをとりあげ、各技術がどのようなメカニズムで環境改善を行うか、どのような改善効果が期待できるか等の特徴を整理し、個々の技術の長所と課題を明らかにした。
適用にあたっては、対象海域の物質収支や汚濁の現状を踏まえて選択することが重要である。
(1)覆砂
覆砂は水・底質改善を目的とした事業における最も代表的な技術の一つであり、多くの適用事例がある。実施海域はいずれも水・底質の悪化が進行し、イメージダウン(三河湾蒲郡竹島地区、厳島港)、水産業への影響(津田湾、松島港)、赤潮(三河湾河和沖)等の深刻な環境問題をかかえ、改善が強く求められている場所である。
覆砂は底泥からの栄養塩溶出を防ぐとともに、底層の酸素消費を抑制する技術である。特に溶出量の削減効果は高く、津田湾における事例では、溶出速度は図-3.1.1のようにほぼ0に近い状態で推移している(干山、1998)。また、二次的効果として、底生生物の生息環境を向上させ、生息量の増大や種組成の多様化を促進する。有明海大牟田地先の干潟で実施された例では底生生物相の回復は非常に速く、施工直後からマテガイの稚貝などが確認されている(本田ほか、1993)。また、三河湾河和沖における試験工事の結果でも、覆砂区域内の底生生物相の多様性は、区域外に比べて高いことが報告されている(図-3.1.2)(潮崎、1998)。これらの効果はいずれも施行直後から確認されており、覆砂が即効性の高い技術であることを示している。
一方、海域の特性にもよるが効果の持続性には難があり、三河湾河和沖では5年間の追跡調査のうち、後半になると覆砂層表層に新たな浮泥が堆積したことが報告されている(潮崎、1998)。
また、改善事業に適用していく際には効果を予測する手法が確立されていることが望ましいが、東京湾シーブルー計画では数値シミュレーションにより、湾内の一部を覆砂、浚渫し、人工干潟等を造成したときの水質変化の予測を行っている(中野、1994)。