2.3 環境改善の方向性
各海湾の特徴と汚濁の現状を整理した結果、有明海を除く3海湾では、夏季に発生する貧酸素水塊がその海域に生息する底生性の生物に多大な影響を与え、生物を通じての物質循環に支障をきたしていることが判明した。もちろん、高度成長以来の浅海域の埋立てによる干潟、藻場の消失や現在においてもなお続く高い水準の負荷がその原因となっていることはいうまでもない。
貧酸素水塊の状態をさらに詳細にみると、東京湾や三河湾では残された浅海域にもその影響が及んでいる。すなわち、東京湾では青潮の発生に伴って、湾奥部の浅海域における生物の生息を阻害しているのに対し、三河湾では貧酸素水塊そのものが浅海域でも発生し、残り少ない生息域に影響を与えている。両海湾は浅海域が広く、海底勾配が緩やかなことに加えて、東京湾では風による沖出し流の発生のしやすさ、三河湾では平均水深が浅く、分解による酸素消費が躍層の直下にまで達しているためと考えられる。
このように、浅海域に生息する生物量が減少することで底生性の生物による有機物の蓄積、消費が少なくなり、利用されない有機物が浮遊系の生物生産を活発化させ、沈降、分解過程で酸素を消費し、貧酸素化をさらに助長する。こうした物質循環システムの崩壊は、海洋環境を急速に悪化させる働きをしている。
以上に述べたように、各海湾における環境改善には、有明海を除くと生物の生息を直接脅かす貧酸素水塊の発生を防ぐ、もしくは貧酸素の影響が浅海域に及ばないようにすることが必要である。そのための具体的な方策を検討するため、各海湾において負荷と生物機能とのバランスを汚濁がほとんど進行していなかったと考えられる1950年代と現状(1990年代)とで比較してみた。図-2.3.1は各海湾の流入負荷(湾容積に対する比率)と浅海域の面積比率の変化を示したものである。浅海域に生息する生物量がおおむねその面積に比例していると仮定すれば、縦軸は物質循環に果たす生物機能の変化として捉えることができる。