2. 沖合いNSR用氷海商船の開発
沖合いNSR用氷海商船に関わる研究も、上記の沿岸NSR用商船の開発同様、基本計画、水槽実験、結果の評価という手順で進めた。しかしながら、INSROP研究に合わせて比較的短時間で研究結果を得なければならないこと、第1期研究において各船型の性能についてのデータが得られ、この結果が本船の設計にも利用できること、等の理由により、水槽実験により各種船型の性能を比較・検討するという過程は行っていない。
2.1 基本計画
本研究では、日本とヨーロッパ間をNSR上の港湾に寄港することなく沖合いNSRを航行する商船について研究する。このような船舶においては、スエズ経由等の他の航路に対する経済上の競争力が重要なポイントである。このため、まず、研究対象の船種を決定するために、極東とヨーロッパ間の荷動きの現状及び将来予測を勘案しながら、コンテナ輸送船とバルク輸送船について検討した。この結果、コンテナ船は、その物流需要が最も高くなると予想されたが、その特性である高速航海・定期運航の観点からは、NSRの他の航路に対するメリットは必ずしも活すことができない、一方バルクキャリアーの場合は、現状の運航速力と氷海中の速力との較差がコンテナ船に比べて少なく、予測される物流需要も比較的高い、との結論に達した。このことから、本研究ではバルクキャリアーを対象船種として研究を行うこととした。
本船は沖合いNSRの航行を想定しているため、沿岸NSRの場合のような喫水制限は緩和される。このため、スエズ経由の航路に対する経済上の競争力を高めるために、想定航路に対して最大の排水量となるような船型を狙うこととした。また、その性能に関しては、砕氷能力については第1期研究の対象船舶程度に保ちながらも、航海日数の短縮を図るために開水中性能の向上を図ることとした。主要目等は以下のように決定した。
●主要寸法:想定航路上の最浅水域であるサニコフ海峡の水深を考慮して、喫水dは12.5m、また、砕氷船によるエスコートを考え、幅Bは30mとした。これらの値に基づき、従来の氷海商船の緒元間の関係を参考に、垂線間長は8B、深さDについてはD/dが1.4から1.5程度となるようにした。
●船型:第1期研究の成果に基づき、氷中及び開水中の性能のバランスが良いD-d船型をベースに、船長/幅比の増大に伴って平行部を延長させるようこれを改良した船型とした。方形係数は0.75から0.77程度とする。
●船体構造:アイスクラスをIA Superとし、二重船殻とする。
●排水量、載荷重量:上記の主用寸法及び船種・船尾の特徴から排水量は71,000トンと推定される。また、耐水構造及び二重船殻であることを考慮して軽荷重量を20,00トン程度と推定し、載貨重量は51,000トン程度に計画した。この載貨重量は、既存の代表的な氷海商船の延長線上にあるものと言えよう(図A-16)。
●砕氷能力:厚さ1.2mの氷板を3ノットで連続砕氷が可能。
●開水中速力:現在のPANAMAXバルクキャリアーによるスエズ経由での横浜-ハンブルク間の年間最大航海数を上回ることを目標とし、氷海航行時の速度低減を勘案して、開水中の航海速力を17ノットとした。