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NSR周辺の海洋先住民の生活(Bruemmer, 1993)

 

民族の固体数がある限度を超えて減少すれば、文化的にも生物的にも固有性を保持することが難しく、また長年の植民政策によりロシア人との混血率は増大し、民族文化の継承が次第に困難となっている。シベリア先住民族固有の文化を維持しながら、先住民族を次元を異にするとも言える現代社会へ編入することには多くの問題が伴う。

シベリアは、政治的実体として分離するか、若しくは極東等、多数の地域的単位に分割されるべきかも知れない。しかし、将来の構造がどのようになろうと、シベリア先住民族にとって、かれらの土地がロシア人支配者達に搾取される植民地ではないこと、民族の殆どが望むものであれば、かれらの主権が正当に認知される国家の設立が保証されねばならない。北極海航路啓開が、特に漁労を生活の糧とする先住民族の生活を乱すものであってはならず、さらに続いて起こるであろう航路沿い沿岸各地における僻地振興や産業振興、資源開発、資源輸送路の整備などが、先住民族の生活を脅かすものであってはならない。

 

(2) 税制・科料

ロシアにおける税制と税の徴収現状、税に対する国民意識は、西欧社会の理解を超えるものがある。また、海外投資や外国資本に対する税制を含め、ロシア税制、科料体系は極めて流動的である。

NSR環境保護に関しては、外部不経済を論拠とする環境税的保護法制があり、NSR運航規則にはEU共通環境政策第5次環境行動計画(1993年)に盛られた予防原則(precautionary principle)への転換や汚染者負担・パートナーシップ原則の影響が散見できるが、実際重大汚染を引き起こした場合の損害賠償額の見積りについては不明確な点が多く残されている。これは、一つには、生態系の価値評価が未完であることにも因る。

 

 

 

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