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総延長4,500km、総工費400億ドル、2001年完工の暁には、年間650億m3の天然ガスを欧州に供給する新ルートが開通する。ロシアは現在でも年間1,330億m3の天然ガスを東西欧州に供給し、欧州総需要の3分の1を満たし、全てガスプロムの独占となっている。

ガスプロムの対外戦略は、アジア・太平洋地域にまで及び、1998年にはアジア・太平洋地域を統括する系列会社、「東ガスプロム」を新設し、西シベリアから東方へのガスパイプライン整備や、東シベリア・極東地域での新規ガス田開発にも大きな関心を示している。ガスプロムは、イラン関連で警戒心を緩めない米国政府の資金調達妨害もはね退け、既に米国をも恐れぬ巨大組織になっている。

他産業の振るわぬロシア経済界にあって、外貨獲得の旗手として、また事業規模において、ガスプロムは際立った例外的な組織であり、今後のロシア政財界に測り知れない影響力を持っている。

石油産業の現状はガス産業とは異なり、1992年以降、大規模な民営化が行なわれ、ルークオイル、ユコス、シダンコ、スルグートネフチガス、シブネフチなどの大石油会社を筆頭に大小様々な石油会社が誕生し現在に至っている。1995年以降、政府財政不足を補うため、大石油会社の政府保有株を次々に売却したことから、政府の石油産業への統制力は急速に弱化し、有力商業銀行と石油産業との結びつきがロシア型金融・産業グループの雛形となった。ロシアの石油会社の規模は、ガスプロムとは比肩すべくもないが、国際的には、ロシアン・メジャーと呼ばれる巨大企業であり、最近では、1997年、ペトロリアム・インテリジェンス・ウィークリー発表の石油企業上位50社の中にランクされている。

ロシア最大の産油量を持つルークオイルは、1996年には世界第14位の5,100万トンの原油を生産、原油埋蔵量では世界第11位にランクされている。ガスと共に、資源国ロシアの石油産業が有する世界経済への影響力は大きなものがあり、資源開発主導のNSR啓開のシナリオでの鍵でもある。

ガスプロムの例は、確かな利益が保証されるか、少なくとも確実な根拠を基に想定できる産業へは、海外からの充分な投資が得られることを証明したものであり、逆に、不確かな情報、不安定な政策、規制では、海外の投資はおろか関心を引くこともできないことを示している。いずれにしても、ロシアにおけるエネルギー・ビジネスの動向をしっかりと把握することが、これからの北極海航路の行方、有り様を考える上で重要である。

 

(2) 水産資源

輸出を念頭に置いてのロシア極域における水産資源開発は、未知の領域である。この海域には、東洋系民族の嗜好に適う魚介類も豊富であり、先住民の自活水準を超える漁獲量の可能性、全体の生態系への影響等については、生態系に関わる今後の慎重な調査が必要とされる。特に、極東のオホーツク海域においては、野放図な漁獲が行われこの海域における水産資源は間もなく枯渇の危機に曝されることが懸念されている。

我が国との関係では、近年の対ロ輸入商品の最たるものは魚介類であり、年間輸入額は10億ドルを上回り、対ロ輸入全体の30%近くを占める。カニ、エビ、イクラ、スケソウなどが多い。

 

 

 

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