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6.2 運航システム

 

運航システムについては、問題が山積している。これは一つには、NSR運航船舶の支援経費の算出法に問題があり、支援経費とNSR運航量との反比例関係、即ち支援要請件数が増えれば支援関係経費が安くなる仕組みにある。厳しい海運環境の中で、下準備もなく民営化されたロシア海運会社にしてみれば、現在を生き延びることが先ず大切であり、将来の展望は二の次となることには同情の余地はある。しかし、少なくとも当初、NSR運航船舶量が低レベルにあると推定されている訳であるから、それだけの運航量をもって、現存の支援砕氷船団の運営経費を捻出し得るだけの料金体制を講じただけでは、NSRの商業航路としての魅力は全くない。つまり、国策として北極海航路の啓開を策定したのであれば、少なくとも当座、政府の然るべき経費負担を前提としなければ、NSRの国際商業航路としての進水は至難のこととなる。勿論、このような制度が、国際慣習に馴染まず、ガット違反の疑いも否定し得ない懸念もあるが、解決の方法は充分残されている。

また、航路沿いの航行支援、救難施設等のインフラストラクチャーを欠く現状では、本来航行リスクに対しても、何らかの政府保証が必要である。なお、インフラストラクチャーの整備については、何をどのような手順で整備して行くのか、整備の具体的なシナリオを欠いている現状では、NSRを国際商業航路と考え、NSRでの船舶運航を計画的かつ真剣に検討し、必要な投資を考える海運会社が存在するとは到底思えない。

NSR運航システム整備のための投資を海外に望み、委ねるのであれば、投資効果を明確にし、投資利益の見通しが可能となる確かな計画を呈示することが肝要である。

人工衛星情報を利用する氷況予報サービスについては、どのようなシステムが最適かは、利用者数と利用形態に依るものであるから、現状で、将来システムを確定することは難しいことは理解できるが、具体的にどのようなサービスが得られるのか定かでなければ、商業運航を検討する側で時期いまだしと考えられても致し方なく、少なくとも具体的な計画提示は必要である。

 

6.3 経済・社会・政治体制

 

6.3.1 経済

 

(1) エネルギー産業と経済

近代においては、エネルギー市場は常に世界を揺さぶり、国家経済を動かし、他産業に対して大きな影響を与え続けてきた。昏迷をつづけるロシア経済を救済し得るものは、ロシアに豊富に賦存するエネルギー資源の開発であり、ロシア石油・ガス産業の対外事業拡大である。ソ連体制時代、開発、輸送、供給、輸出の全てを掌握、支配していたガス工業省をそっくり株式会社化した独占企業体ガスプロム(初代社長はチェルノムイルジン元首相)は、20世紀が石油の世紀なら、21世紀は天然ガスの世紀、との観点から、欧州への天然ガス輸出拡大戦略をたて、壮大な開発プロジェクトに次々に着手している。ガスプロムは国内の他、世界25カ国で事業を展開し、従業員40万人、所管のガスパイプライン総全長14万5千キロ、ロシア国家の中の国家と称される強大な経済力を有する。国内開発中のガスラインの内、最も大規模なものは、ヤマル半島にある大型ガス田を開発、ベラルーシとポーランドラインを通りドイツの首都ベルリンまで大口径パイプライン2本を建設するもので、ヤマル・ヨーロッパ計画と呼ばれている。

 

 

 

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