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一方、ロシアの衛星OKEANについては、東経40度の大西洋上空、東経80度のインド洋上空及び東経140度の太平洋上空の3衛星がNSR領域をカバーしている。OKEAN衛星の場合は、NSRのほぼ全海域に亘ってこれらの衛星のどれかが水平線上に位置する(図4.2-11)。しかしながら、OKEAN衛星に対応した送受信システムは、Volna-C並びにIceberg(ロシア製)、Saturn-3C(ノルウェー製)及びJUE-45(日本製)と限られていて、現状ではこれらの普及率は低い。

 

(4) 氷象・気象情報

これまでにも述べてきたように、NSRにおける自然環境、特に氷況は極めて厳しく、船舶の安全な航行のためにはこれらに関わる情報の提供が不可欠である。このため、NSRにおける氷象・気象情報の収集・解析・予報及び利用者への提供のためのシステムが構築されている。このシステムの中核を成す組織が、サンクトペテルスブルグの北極南極研究所(Arctic and Antarctic Research Institute:AARI)内に置かれた、氷象・水文気象情報センター(the Center for Ice and Hydrometeorological Information:CIHMI)である。また、NSR沿岸のディクソン、チクシ及びペベクには地域センターがあり、CIHMIはこれらのセンターとネットワークで結ばれている。

氷象・気象データの取得は様々な手法で行われるが、地上における観測データとしては、砕氷船その他の船舶からの情報並びに北極海上に点在する島々及び漂流する氷盤上に設置された自動観測機器からのデータが用いられる。自動観測機器からのデータは、OKEAN衛星を介してCIHMIに送られる。一方、上空からの観測には、人工衛星によるリモートセンシング及び航空機からの観測が用いられる。人工衛星としては、METEOR、OKEANといったロシアの衛星に加え、NOAA衛星も利用され、可視光領域、赤外領域及びマイクロ波帯によるリモートセンシング画像が地上局において受信される。航空機からは目視観測が行われるとともに、サイドルッキングレーダーによる観測も行われる。

このような観測システムは、当然のことながら一日にして成った訳ではなく、技術の進歩とともに観測データの質・量を高めながら、現在に至っている。航空機による定期的な観測は1941年から42年にかけて開始された。当初は目視観測のみであったが、1968年以降はサイドルッキンダレーダーが導入されるとともに通年観測が行われている。また、衛星データの利用は、1969年にMETEOR-1シリーズの衛星からの可視光領域による画像の受信が開始された。その後、1975年からは可視光領域に加えて赤外領域に対応したセンサーを搭載したMETEOR-2シリーズの衛星が利用され、現在は1987年から利用が開始されたMETEOR-3シリーズの衛星が用いられている。また、1983年からは、サイドルッキングレーダー、マイクロ波放射計及び可視光センサーを搭載したOKEAN-1シリーズの衛星が利用されている。

このような観測技術、特に人工衛星による観測技術の発展に伴い、NSRの氷況・海象に関する情報の収集・提供システムも変化してきた。人工衛星によるリモートセンシング情報の利用が本格化する以前は、ディクソン、チクシ、ペベク等の地域センターにおいて各種情報の収集・解析を行っていた。各地域センターは、これらの情報に基づき、氷況・気象等についての短期(一週間程度)予測を行うとともに、運航管制所への氷況マップの提供、NSR上の船舶への航行についての助言等の業務を行っていた。各地域センターからの情報はCIHMIへも送られた。

 

 

 

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