日本財団 図書館


CIHMIではこれらを総合してNSR全域に対する氷況マップを作成するとともに中・長期(2、3カ月程度から1年)にわたる氷況及び気象予報を行い、これらを運航管制所へ提供していた。しかしながら、氷況観測手段としての衛星データの有用性が質・量ともに高まり観測の中心となるにつれて、衛星データを含めた情報の処理をそれぞれの地域センターにおいて行うことの能力的限界が現れるとともにその必然性が薄れた。現在では、CIHMIが短期氷況予測及び氷況マップ作成を含めた氷象・気象データを一元的に扱い、各種情報を運航管制所その他のユーザーへ提供している。

 

(5) 人工衛星による氷況観測技術

NSRを含めた氷海域を航行する上で、氷況についての情報は極めて重要であるが、観測ステーション、観測に利用できる航空機・船舶等の絶対数が限られている。また、その自然環境の厳しさのために、現地における観測・計測が困難となる場合も多い。しかしながら、近年、人工衛星による地球表面の観測技術の発達により、衛星画像の氷況観測への適用が実用化され始めている。前述のように、衛星画像による氷況観測は、NSRにおいても氷況予報の中心的手段となっている。

人工衛星搭載のセンサーには、その対象となる電磁波の種類により様々なものがあるが、船舶の航行支援を目的とする氷況観測においては、マイクロ波帯の電磁波を用いるセンサーの画像の利用が最も有望視されている。マイクロ波は、太陽光あるいは雲の存在の有無に関わらず地上の情報を得ることができるため、極夜あるいは曇天の場合においても使用が可能である。マイクロ波を用いたセンサーは、大きく、受動型センサーと能動型センサーとに大別できる。受動型センサーは、地上から放射されるマイクロ波を受信して映像化するものであり、原理・オペレーションともに比較的簡便なセンサーである。マイクロ波能動型センサーの代表例としては、米国防衛気象衛星計画(DMSP)の衛星に搭載されたSSM/I(Special Sensor Microwave Imager)がある。一方、能動型センサーは、衛星からマイクロ波を地上に向けて放射し、その散乱放射を再び衛星において観測する原理によるセンサーである。能動型センサーとしては、MOS、NIMBUS、NOAA等の衛星に搭載されたマイクロ波放射計(Microwave Scanning Radiometer:MSR)、走査型多チャンネルマイクロ波放射計(Scanning Multichannel Microwave Radiometer:SMMR)及びロシア衛星OKEANに搭載されたサイドルッキングレーダー等がある。また、合成開口レーダー(Synthetic Aperture Radar:SAR)は、能動型マイクロ波センサーの一種であるが、画像分解能が約100mと極めて高いため、氷況把握のための有用なセンサーとして期待されている。

SARを中心とするマイクロ波によるリモートセンシングは氷況観測にとっての有用なツールであり、前述のように、すでにロシアにおけるNSRの氷況把握システムにも利用されている。また、NSRの開放以後、幾例かの試験航海が行われてきたが、これらにおいても航路決定に対する衛星情報の本格的利用についての検討が行われてきた。NSR解放後非ロシア船として初めてNSRを完航したL'Astrolabe号の航海では、ERS-1からのSAR画像及びSSM/I画像から作成された氷況マップが船上へとファクシミリ通信された(Johannessen,1992)。また、シップ・アンド・オーシャン財団により行われたKandalaksh号による実験航海でも、同じくERS-1からのSAR画像及びSSM/I画像から作成された氷況マップが船上へと送られた。

 

 

 

前ページ   目次へ   次ページ

 






日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION