フィンランドのタンカーLunniでは船首形状こそ従来の砕氷型船首であるが、推進器をアジマス型に変更し、船尾形状も砕氷型に改良した。Lunniによる実船試験では、船尾砕氷航行が充分に可能であることが示された。しかしながら、大規模な氷丘脈等、厳しい氷況の下でのDASの安全性は現状ではまだ保障されておらず、DASの本格的利用の可能性・限界を知るためには、今後とも模型及び実船試験による更なる研究が必要であろう。
上に述べた、通常船舶の概念からすると一見突飛とも見えるような船型開発の背景には、氷海水槽における模型実験技術の発達がある。氷海水槽とは、船舶の氷中性能に関する模型実験施設であり、1960年代後半のカナダ及びアラスカ沖の北極海における海底資源発見後、1970年代から80年代にかけて、世界各地に十数水槽が建設された。氷海水槽は、試験水槽を冷凍庫内に封設した設備であり、併設の冷凍施設により庫内を冷却することにより水槽内に製氷する能力を有する。図4.1-16は氷海水槽における模型実験の様子である。試験水槽部の形状は、通常船舶の試験用の曳航水槽同様、直進試験を主目的とした長水槽がほとんどであるが、フィンランドには旋回試験の実施が可能な角水槽も建設されている。
(2) NSR用商船の船型開発研究
シップ・アンド・オーシャン財団では、INSROP開始に並行して、「北極海航路開発調査研究委員会」を設立し、INSROPの推進にあたるとともに、わが国独自の立場からのNSR関連研究事業をJANSROPとして実施した。この一環として、NSRでの使用を想定した氷海商船の船型開発研究を行った。この研究は第1期(平成5から7年度)と第2期(平成9年度)の2期に分かれて、それぞれ、沿岸の浅海域を対象とした氷海商船及び沖合いの航路を対象とした船舶についての研究が行われた。ここでは、氷海船舶の船型開発の例として、第1期研究について述べる。
なお、4.4節において述べるNSR航行シミュレーションの対象船舶の中の1隻である50,000重量トン型バルクキャリアー(50BC)は、第2期の研究で開発した沖合い航路用商船である。