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図4.1-14 WAAS型船型により形成されたチャネル

 

この特性は、氷板中において他船をエスコートする際に、後続船の安全を確保する意味で重要である。

近年の砕氷船においては、スプーン型船首あるいはWAAS型船首といった新型船首とともに、船体平行部から船尾にかけての幅が船首部よりも狭く、両者の間に段差がついたリーマー(reamer)型船型が採用される場合がある。リーマー型船型の目的は、第一に船体平行部における抵抗の軽減にある。通常船型の場合、船体平行部と側部の氷板あるいは両者の間に狭窄された砕氷片との間に働く摩擦による抵抗が発生する。リーマー型船型では船首部で形成される砕氷チャネルの幅が平行部に対して充分に広く、この抵抗成分の低減が期待される。リーマー型船型の第二の目的は氷中における旋回性能の向上にある。旋回では、特殊な船型を除いて船尾による砕氷が期待できないことから、旋回中の横流れ角が殆ど無く、旋回性能はチャネル内における船体の相対的回頭角度と船首部における砕氷量の左右非対称性の程度によって決まる。リーマー型船型では、チャネル内における船体の回頭角度の許容量が大きく、通常船型に比べて氷中操縦性能が向上する。

以上のような新形式の砕氷船型は、様々な船舶に適用されて従来型船型に比べての優位性が実証されている。しかしながらこれらの船型が、氷中性能に注目して開発されたものであり、開水中の性能はある意味犠牲にされていることも記しておくべきであろう。これらの船型の平水中抵抗は従来型に比べて増加するとともに、特に波浪中においては性能の低下が著しい。スプーン型船首を有する船舶において波浪中でのフレアスラミングによる衝撃荷重による振動が激しく、上部構造でのクランク発生にまで至った事例もある。従って、商船のように、氷中のみならず開水中での性能も重要視される船舶においては、余り極端な船型は採用されず、従来型の船型が用いられることが多い。

このような、氷中性能と開水中性能を両立させる目的で考案されたアイディアがDAS(Double Acting Azipod Ship)である。DASは船尾にアジマス型推進器を備える。船首部はバルバスバウ等開水中の特性に優れた船首形状として、砕氷型船首特有の開水中の問題を解決する。一方、氷海中において砕氷航行をする際には、船尾を先に進む。このため船尾形状は砕氷性能の優れた形状となっている。この航行状態は、プロペラと氷の干渉が懸念されることから、一見机上の空論と見られるが、DASの発想が持たれたフィンランドでは、バルト海において船首プロペラを持つ砕氷船が使用され実績を上げており、DASはこのような船首プロペラ時代の経験・実績に基づくものである。このような性能上の有利さに加え、商船では船尾近くにブリッジが設置されるために後進状態の方が前方の氷況の監視がより容易になるというオペレーション上の利点もある。

 

 

 

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