氷海船舶の船型開発にあたっての第一の目標は、氷から受ける抵抗の低減による砕氷能力の向上である。船舶による砕氷現象はその船首部において卓越することから、砕氷抵抗の小さい船首形状として様々な形式が提案された。氷海船舶における伝統的な船首形状は、V字型のフレーム形状を有する楔形船首である。この船首形状は、氷中と開水中の性能の最適化という観点から、多くの船舶に採用されている。しかしながら、ステム部の丸い鈍な水線形状を有する船首の方が砕氷抵抗が小さいことが、近年の研究により明らかにされてきた。この船首は、その形状がスプーンの裏側に似ていることから、スプーン型船首(Spoon Bow)と呼ばれる(図4.1-12)。スプーン型船首では、氷と接触する船体外板の傾斜角が従来の楔形船首よりもさらに浅くなっており、氷板の曲げ破壊が卓越する。なお、スプーン型船首と同様に丸みを帯びた船首に対し、円筒型船首(Cylindrical Bow)あるいは円錐型船首(Conical Bow)という呼び方が使われることがあるが、これらを厳密に区別することはできない。
スプーン型船首は、従来の砕氷理論を踏襲して、氷の曲げ破壊をさらに卓越させることにより砕氷抵抗の軽減を図った船首形状であるが、これと全く異なるメカニズムによる砕氷を実現させるものとしてWAAS型船首が開発された(Freitas, 1978)。WAAS型船首では、船首部底面の両側部が中央部よりも下に張り出して鋭角な隅部を形成している。船体が氷板中に進入すると、この両隅部が氷に対して鉛直下向きの力を加えることにより剪断により氷が破壊される(図4.1-13)。船体がさらに進出することにより、両剪断腺の間の氷が船底により押し下げられて曲げにより破壊される。これらの破壊により形成された氷片は、最終的には傾斜した船底部において船体側部の氷板の下へ排除される。WAAS型船首は、氷の剪断強度が一般に曲げ強度よりも低いことに着目して砕氷抵抗の軽減を図ったものであるが、この他の効果として、船後に形成されるチャネルの両縁が明瞭であり、また、砕氷片が船体両側の氷板下に排除されることにより、チャネルの中に残される氷片が少ないことが挙げられる(図4.1-14)。