3.2.5 北極海の海流と氷の漂流
北極海の海流は、海氷のために広域の観測が少ないが、表層と中層とでその動きが異なっている。
北大西洋を北上する湾流の続流は、西スピッツベルゲン海流としてフラム海峡から北極海に流入する。そこで、北極海表層水の下に潜り込んで中層に移りながら、ユーラシア大陸の大陸斜面に沿って北極海内部へと進入するが、北極海中央部で大きく湾曲してカナダ北岸に移動し、北極海の表層の大きな環流と同じ動きをするようになる。
北極海の表層海流には、アラスカ北岸と北極点との中間を中心とする時計回りのゆっくりとした環流がある。外側ほど流れが速く顕著になるが、中央部には流れの方向が一定しない海域がある。海氷もこの環流に乗って漂流する。この環流のシベリア側は、ベーリング海峡からフラム海峡に向かう流れであり、ナンセンのフラム号をはじめ、氷に閉じ込められて漂流した多くの船がこの海流に乗って移動した。
シベリア沿岸の大陸棚には、西から東に向かう流れがあり、太陸棚沖のフラム海峡に向かう流れとの間に諸島があるので、大陸棚上には渦を作るような複雑に変化する流れの場が存在する。岸の影響を受けない北極海内部の海氷の動きは、長期的には卓越風の影響を強く受け、北極高気圧の等圧線にほぼ沿って移動する。移動速度は海上風速の5%程度で、風速10m/sの風が吹き続けると1ノット位の漂流速度となる。