行政相談制度は、個々の構成部分がネットワークを形成しているしくみ。その中でも行政監察局とその出先機関の職員の場合は、総理府の外局である総務庁、すなわち政府部門で動いている。一方行政苦情救済推進会議や約5千人の行政相談委員のように、外部の独立した立場の人々もいる。このネットワークの構成部分として役割を果たす組織や人々の独立性が、よりはっきりしたものになればなるほど、このシステムは制度的な意味でもオンブズマンに近づく。この行政相談制度と総務庁の行う行政監察の問にはどのような関係があるのか。
監察の力点は監督、統制、内部規律といった政府内部的な目標に傾くこともあり得る。つまり、オンブズマンの役割は外向きで、ボトムアップのアプローチを取る。一方、監督や監察というのはトップダウンになりがちである。
迫加(私見)
総務庁の行政相談制度は、法律上は総務庁設置法第4条第14号「各行政機関の業務及び前号に規定する業務 (特殊法人の業務及び国の委任又は補助に係る業務)に関する苦情の申出につき必要なあっせんを行うこと。」を根拠としている。この条文は1960年に成立したのであるが、事実上1955年には実施されていた。また、行政相談委員は、1961年の発足時882人であったが、その後増員が行われ、現在では5,046人となっている。行政相談委員は、総務庁長官が民間の有識者に委嘱し、全国の市町村の区域を単位に配置される。目的は、相談者と所管の行政機関との間に立って、公正、中立な立場で、苦情の解決を図ることにある。助言、通知が主で、権力をふりかざしたり、処分したり、担当行政官を訴追したりする権限は付与されていない。ただし、行政相談委員は、相談業務を通じて得られた行政運営の改善に関する意見を総務庁長官に述べることができる。
総務庁の行政相談制度は、総務庁行政監察局(管区行政監察局、行政監察事務所)と行政相談委員、そして行政苦情救済推進会議の三つから構成されており、これらが全国的ネットワークを形成して、苦情救済活動を行っている。これが事実上日本的オンブズマンシステムとして、世界にはあまり例のない存在となっている。
4 オランダの経験
オランダも、経済発展した確立された民主主義国という第1のタイプに属する。1982年1月1日、オランダではナショナル・オンブズマン制度が導入された。それから18年が経ち、この制度は成熟して広く定着した。例えば、1998年3月25日、この制度は憲法に盛りこまれるという形で重要性が認められた。また、ナショナル・オンブズマンは国家最高機関のひとつになっている。
行政裁判所を補完するような権限を持つナショナル・オンブズマンは、政府から国民を守る制度の一部である。高度に専門的な仕事をする権威ある、独立した公平な機関として認められ、尊敬され、幅広い信頼を集めている。したがって、政府当局は、ナショナル・オンブズマンの判断を非常に真剣に受け止め、殆どすべての場合オンブズマンの勧告に従い、政府の関係機関もオンブズマンの注意喚起などに耳を傾ける。ナショナル・オンブズマンが打ち出した適正評価基準は、政府が満たすべき良いガバナンスの基準であると広く認められている。