また経済的な繁栄が一握りのエリートに集中しているために、残念ではあるが、政府当局は人権を守れていない。オンブズマンの仕事の在り方が左右され、こうしたグループの国々は、オンブズマンの任務は人権を守ることであった。人権の侵害に関するケース以外は、オンブズマンは「不正義につながる悪い行政」のケースを扱う時間はない。オンブズマンは、政府当局に対して国民はどういう権利をもつか、また、どのようにしてそうした権利を主張できるかを人々に伝えていくという、教育的役割が重視される。
(4) 経済が発展途上にある確立された民主主義国
発展途上経済と民主主義の組み合わせがみられるのは、主に旧植民地で、宗主国にならった政治体制を確立し、それをある程度まで維持している国々である。その後、発展途上国であるということもあいまって、先進的経済をもつ歴史のある民主主義国ほどオープンでも多元的でもない政治体制となった。ここでは、「確立された民主主義国」すなわち、全体主義支配の時代から最近脱した比較的若い民主主義国と区別するためである。この中でオンブズマン制度が確立されたグループを挙げるとすれば、次の国々がある。
英連邦加盟国のインド、パキスタン、スリランカ等のアジア諸国やタンザニアなどのアフリカの国がある。フランスもいくつものアフリカの国々に軌跡を残している。例えば、セネガルには「Mediateur(調停人)」が置かれている。
(3)と同様、政治、行政の状況は、経済的には発展途上国であるということに大きく左右される。政府機構の規模も大きく、より官僚的になりやすい傾向にある。オンブズマンの仕事は状況によって変わってくる。つまり、汚職に対抗する努力にオンブズマンの時間が多く費やされる。タンザニアやザンビアのような国々にはオンブズマン制度が昔からある。こうした国では、オンブズマンが独立的な調査委員会という形で「不正義につながる悪い行政」のケースを調査の対象とする。警察、諜報機関、場合によっては軍隊の活動の仕方や、刑務所の状況、政府が特定の集団を差別しているかどうかによって、オンブズマンの分野で特別の任務を帯びることもある。例えば「人権擁護委員会」などの形で、そのような問題を扱うしくみが他にあるだろうか。
以上の通り4つのタイプの型に分類される。現実には、それぞれのタイプにあてはまる国々は、経済的発展においても、法の支配による民主主義国としての成長においても、大きく異なっている。オンブズマンの主な特徴は自らの管轄下にある機関から独立した立場にある。オンブズマンは苦情を基に仕事をするかたちのものであることが重要である。法律の範囲内で、国民は政府に関するどんな苦情でもオンブズマンに申し出る権利を与えられているべきであり、オンブズマンはその苦情を検討する義務を与えなければならない。
3 日本型オンブズマン
オースティン博士は日本型オンブズマンについてこう述べられている。この制度は、国民の政府に対する苦情の処理を行う。一方で、新たな苦情が出ないよう対策を取ることも重視している。この制度が整備されたのは、国民を政府から保護するためである。機能的な面から見れば、オンブズマンのように苦情を基に動く。一方、制度的な面から見ると、オンブズマンとの違いが表われる。オンブズマン制度に不可欠な特徴は独立性である。