(1) 経済発展した確立された民主主義国
現在のオンブズマン発祥地スカンジナビア諸国やオースティン博士の祖国オランダという、法治国家として民主主義国として長い実績のある国々の状況がある。また、全て福祉国家で、この国々のオンブズマン機能は、従来の制度では国民を保護できないという認識から、補完するため整備された。このような事情が見られるのは、北・西ヨーロッパ諸国や、ニュージランド(1962年)、カナダ(1979年、プリティシュコロンビア)、オーストラリア(1971年)、といった英連邦の国々である。
このような国々は、政府当局に自らの行動を説明する責任を担わせ、法の支配にふさわしいチェック・アンド・バランスを適用してきた経験が豊富である。このような国々は教育程度が高く、自らが政府に対しどのような権利をもっているか、また、その権利をどういう方途で主張すればよいか理解している。したがって、人権侵害がオンブズマンの仕事の対象にはならない。むしろ、巨大で官僚的な組織がかわっていくうちに感じた無力感から人々はオンブズマンの保護を求めることが多い。こうした国々では、「不正義につながる悪い行政」に当たる、政府の様々な行動についての苦情を処理することがオンブズマンの仕事の大部分を占めている。
(2) 経済発展した新興民主主義国
過去15年〜20年間、全体主義で軍事統治の時代から新しい多元的な民主主義的秩序を求め始めた国々でオンブズマン制度が整備された。政権交代の数年以内にオンブズマン機能が確立された。ここに属する諸国としては、ヨーロッパでは、右翼独裁政権打倒後のポルトガル・スペイン、共産主義崩壊後のポーランドやハンガリー、ラテンアメリカの場合、アルゼンチンなどをこのグループに挙げることができる。政治経済の変化にともなって、新憲法が設立され、国民の権利が保障され新国家に対して主張できる権利・自由という人権が新たに重視されるようになった。
こうした国々でオンブズマンが果たすべき役割は、新しい民主的な法治国家の形成に寄与し、オンブズマンが主に扱うのは人権問題である。国々の殆どでは、オンブズマンの役割は監視である。社会的権利の保護に取り組むことになる。オンブズマンの役割も「不正義につながる悪い行政」に関する苦情の処理が大部分を占めている。行政自体に対しては、オンブズマンは重要な教育的役割を果たした。
(3) 経済が発展途上にある新興民主主義国
このグループの特色は、政治的変化が起こったのは比較的豊かな国だけではない。最貧国の一部でもそうした変化が見られた。
こうした国々では、軍事独裁と、主に警察と軍隊に代表される体制側とゲリラ勢力との間の国内の武力闘争が、長年人々を苦しめていた。過去10年間、こうした国々でもオンブズマンが整備された。このグループでは、中央アメリカではグァテマラとエルサルバドル、南アメリカではボリビア、コロンビア、ペルーが属する。
これらの国々は、憲法でうたわれている権利を実際に守り、名実ともに法律を実施するという課題に直面している。これらの国々の独裁体制は倒れたが、新政府はまだ脆弱で、依然として暴力と戦っていかなければならない。したがって、民主主義制度に本来備わっているチェック・アンド・バランスが政府の力を抑制するということを新政権が認識しない限り、未熟な民主主義は脆弱なままであり続ける。特に発展途上国はこの点が弱い。