それから、私どもオンブズマンが調査を行う場合には、調査を受ける側は、その調査に協力しなければならないことになっているわけです。裁判所でいいますと、証人として出廷を要請された場合、出廷しなければいけないように、オンブズマンも、協力を要請することができるわけです。また、オンブズマンは、必要であれば証言をしてもらう(こういうケースは今まではありませんでしたが、)ということも要請できる権限を持っているわけです。
このように、オンブズマンは、非常に強力な権限を持っておりますが、先程お話ししました市民のための「アドバイス・ビューロー」は、いろいろな市民の方たちの苦情や問題に対応して、アドバイスをしたり、情報を与えたりということはしますけれども、オンブマンのような強力な権限は与えられておりません。そのあたりが、オンブズマンと「アドバイス・ビューロー」という組織との大きな違いだと思います。
一つ例を挙げます。例えば、奨学金をもらっている学生について何か問題があるということで、奨学金を提供しているところが苦情を申し立てた場合:
その苦情が、「アドバイス・ビューロー」に申し出られた場合には、学生の方に問題があるということで、奨学金を打ち切りましょう、というような解決になるかと思います。
この苦情が、オンブズマンの方に申し出られた場合には、オンブズマンには専門のプロのスタッフがおりますし、そうした問題についての知識の豊富な人たちがおりますので、これらの人たちが、その奨学金を提供している機関と話し合いを行い、もっと問題の本質について細かいところまで調査を行うわけです。そして、オンブズマンは、権限に基づきインターベンション(調停)を行います。これが非常に効果的に働いているわけです。
なお、苦情等の取り扱い件数については、「アドバイス・ビューロー」の方は、私の専門ではないものですから細かい数字は分かりませんが、年間少なくとも1万件以上の問題が寄せられていると、聞いております。これに対し、ナショナル・オンブズマンが取り扱った件数は、昨年の場合、文書の形で出されている苦情が8,500件、それから、情報を提供して欲しいというようなものが、14,000件ございました。
もう一つ、オンブズマンの非常に大きな特徴として、付け加えておきたいことがあります。例えば、一人の個人の方から寄せられた苦情から、いろいろな問題が引き出され、それが解決されることによって、たくさんの方たちが恩恵を被るというようなことがありますし、また、予防的な措置をとることができるのです。そういった予防的措置を取ることによって、政府の質を高めていくということができるのです。
一人の個人の方が、何かを提言することによって、オンブズマンが動き始め、そのオンブズマンの仕事によって、その問題から引き起こされる様々な問題が解決され、非常に多くの方たちが、大きな利益を得るということがあります。これは、オンブズマンだからこそできることであります。これが市民のための「アドバイス・ビューロー」であれば、その問題一個に対してアドバイスをする―解決をする―ということで終わってしまうのです。