このため、私どもは、各省庁がそういった市民からの手紙を受け取った場合に、どのように対処しているかということについて調査し、その結果を基に、各省庁に対し、「きちんと回答するように」ということで、次のようなことを、「レコメンデーション」という形で要請しました。
つまり、各省庁は、どのような手紙がきて、どの部署がそれに対応したか、すぐに返事ができない場合にはどのくらい待てば返事を出せるのか、それから実際に対応した部署の連絡先の電話番号、そういったような細かな情報を、手紙の発信人にきちんと提供するようにと、いうことです。
このような私どもの要請に、すべての省庁が対応をするようになりましたので、それ以後、同様の苦情は出てこなくなりました。
これは一つの例に過ぎませんけれども、オンブズマンの政府に対する働きかけが、いかに大きな影響力を持っているか、ということをお分かりいただけたかと思いますし、またそういう働きかけをしていくことによって、更なる苦情がでてくるのを未然に防止できるということにもつながっていきます。将来的な行政と個々の国民、市民との関係ということにつきましても非常にいい例ではないかと思っております。
最後に、パネルディスカッションを拝聴させていただいた感想を少し申し上げさせていただきたいと思います。
全般的に非常に興味深いお話をうかがえたと思っています。例えば、犬山市長の石田様の行政に関する苦情というものに対する対応が、選挙の候補者である場合と当選して市長つまり、行政の長となった場合とでは異なる、というお話でございますが、苦情の処理ということについてのアプローチの仕方が、マネージメント的なアプローチの仕方、それから政治的なアプローチの仕方という2つの対応があるというお話であったと思いますが、興味深くうかがいました。
次に、行政相談制度について一般の方達にもっとよく知っていただく、認識していただくということについてですが、先ほど「制度が知られていなければ存在しないのと同じだ」というお話がございましたけれども、同感です。
私もオンブズマンとして12年間仕事をしてきましたけれども、一般の方達にこの制度を知っていただくために、新聞、テレビ、ラジオといったマスメディアも活用して皆さんに知っていただくという努力を払って参りました。今、私の国で、国民の方達に「オンブズマン制度を知っていますか」と質問をした場合には、98%の方が「知っている」と答えています。それでは「警察についての苦情のある場合、どこへ申し出ればよいか知っていますか」という、より深い知識を要する質問をした場合、「はい」と答えたのは30%という状況です。
一般の方達にオンブズマンがどういったことをしているのか、ということを知っていただくために、毎週土曜日には、新聞にオンブズマンについての記事を出しておりまして、新聞がオンブズマンについての国民の認識を高める役割を果たしております。行政機関の方は、メディアに批判される立場にあることもあって、メディアをあまり好きでないのかも知れませんが、オンブズマンは積極的に国民の声を政府に伝えるといった役割からしてメディアに接触し、マスコミをうまく活用するということは、オンブズマンにとっては大変大きな力、武器になると思います。