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市民の目線で考える

 

田村 新次(中日新聞社論説顧問)

 

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中日新聞の田村です。

私は、新聞記者として、行政監察局という役所に40年くらいかかわってきました。

昭和30年代の行政監察局は、局そのものが非常に若いといいますか、非常に意欲に満ちた役所でありました。また、昭和30年から行政相談というものが、行政監察の一環として始められ、今や、全国に5000人の行政相談委員の方がいらっしゃる。先程、犬山市の石田市長さんが、昭和30年代に始まった行政相談(行政相談委員)について、「そろそろもう一回見直したら」とおっしゃいましたが、私もそんな気がするのです。あの頃のパイオニア的な行き方というのが非常に印象に残っております。

私は、これは、いわゆる現代版の「ご政道お目付役」である、と以前に新聞に書いたことがあるのですが、―水戸の御老公であり、あるいは江戸の長屋の遊び人で実は旗本の二男坊、こういう人たちが、菓子折りの下に小判を詰めてお代官などを誘惑する悪徳商人に、「越後屋、御主も悪よのう」と言いながら喜んで懐へ入れる代官を懲らしめる―という、あれですね。先程のオースティン先生のお話では、まだ発展途上の段階にある国のオンブズマンの中には、汚職の処理に追われている例があるということでしたが、そういうのは、勿論、今の民主主義の日本とは違うわけです。

昭和30年代、私は新聞記者として金沢市にいましたが、その頃よく石川行政監察局に行きました。私は、行政監察局からしょっちゅう特ダネをいただいておりました。それはなぜ特ダネになるかというと、私しかそこへ取材に行かなかったからです。

当時の石川行政監察局の庁舎は、まだ合同庁舎などない時代で、戦争中の軍の古い木造の小屋のような建物でした。しかも、そこには経歴が多彩な職員がおり、局長さんからして変わっていました。今、未だご健在で、名古屋にお住まいですが、星野芳美さんという方、後に退官され、大学教授もされました。この方は、とにかくもう、これは問題だということになると、率先して先頭を切って走るというような方でした。

私がいただいた特ダネの中で非常に印象に残るのは、白山スーパー林道のブナの原生林が残ったというネタで、これはすごいネタでした。

1964年東京オリンピックの年ですが、林野庁が,白山の中部温泉から4キロメートルほど登ったところにある366ヘクタールの国有林を皆伐して、製紙会社にパルプの原料として売るということを計画しました。ここにありました原生林(立木)11,620本のうち3,858本が500年のブナなのです。大変なお宝なのです。これも全部切って売ってしまうというのです。

この計画を、地元の人から石川行政監察局が聞きまして、そんなことしていいのか、ということになった。―今日ならば環境問題とか、自然保護とか、自然保護団体は放って置かないですが、当時はまだそういう話は全然ない、開発優先の時代ですから―そのような時代に、石川行政監察局と金沢営林署との間で、「皆伐を止めなさい。」、「いやもう契約をしてしまった。林野庁の予算にも組み込まれているので止めることはできない。」、というようなやり取りがあって、結局、奥の方は切るが、白山の林道から視野に入る部分のブナは残す、という妥協が成立した。

 

 

 

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