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ここでオランダのナショナル・オンブズマンの経験について、詳細にわたって述べることは、この講演の趣旨から外れますので差し控えますけれども、後で十分な時間があると思いますので、その時にまたお話させていただきたいと思います。

取り敢えずここでは、経済発展した確立された民主主義国によくあるように、オランダのナショナル・オンブズマンの仕事は、政府当局の「不正議につながる悪い行政」に関する苦情の処理に重点を置いている、ということを指摘しておきたいと思います。しかし、ナショナル・オンブズマンは、警察に対しても権限を持っておりまして、人権問題に関する苦情も非常によく取り上げております。

ナショナル・オンブズマンを12年間務めてきた経験から、もう一つ指摘させて頂きますと、ナショナル・オンブズマンの権威は四つの柱に支えられております。すなわち、独立性、公平性、プロフェッショナリズム、そしてすべてのパートナーに対する開かれた態度というものです。また、新聞その他のニュースメディアにおける広報、情報公開も重要な役割を果たしております。

ナショナル・オンブズマンの機能の発展に伴って、オランダの行政法の新しい分野として、苦情を申し立てる権利が地歩を固めてきました。20世紀の終わりに当たるこの時点で、苦情を申し立てる権利は、オランダでは成熟したといえるかもしれません。特に、大切な点は、今年(1999年)の7月1日、政府機関が苦情を処理する方法の一般ルールを定めた、新しい章が一般行政法典に加えられたことです。これらのルールは、すべての政府当局に適用されます。この新しい章は、政府当局自身が、国民に適切な対応をする主な責任を担っているということを明記しております。

政府機関は、国民に苦情を言わせるような事態が出来るだけ起きないように、まず自らが努力しなければなりません。それでも苦情が出た場合、当該機関は迅速に、かつ十分にそうした苦情に対処しなければなりません。つまり、苦情は出来ればその機関において処理すべきであるということです。ただし、対応が遅れたり、苦情を申し立てた人を納得させられない場合は、その苦情を申し立てた人は外部の機関、つまり、オンブズマンに訴えられるようなシステムになっていなければなりません。

このことは、オランダのナショナル・オンブズマンに更に新しい任務が与えられたということを意味しております。その任務とは、政府当局内部の苦情処理手続きを監視するということです。オンブズマンとして在職中、私はそうした手続きの適否の判定基準を作成致しました。全体として、オンブズマンを外部の最後の救済手段と位置付けている、この内部苦情処理手続きの導入は、重要な進展であったと思います。

 

今後の課題

理想的な世界では、政府は、その存在理由が規定するとおりに、自らの利益を追求することなく、国民と社会に仕えるという行動をとるでしょう。政府の行動には、国の法律を尊重し、ひいては自らが従う高い倫理的基準を尊重する態度が示されることでしょう。こう申し上げますと、夢のようなユートピアのようなお話に聞こえるかもしれませんけれども、オンブズマンは、皆この理想の実現に向けて努力すべきなのです。実践面では、その努力の在り方は外的な状況に大きく左右されるでしょう。先ほどご説明したタイプ別の分類を見ますと、こうした外部状況がいかに多様であるかが分かります。

 

 

 

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