行政相談制度と総務庁の行う行政監察との関係を見ていきたいと思います。総務庁が行う行政監察も、国民にとっての政府の質を向上させることを目的としています。つまり、効果や効率と同様に、民主主義や公正さにも重点が置かれています。しかし、監察の力点は監督、統制、内部規律といった政府内部的な目標に傾くこともあります。そうなると、この制度のオンブズマン的役割は、揺らいできます。オンブズマンは、国民の視点に立つからです。つまり、オンブズマンの役割は外向きで、ボトムアップ、すなわち、下から上へのアプローチを取るわけです。一方、監督や監察というのはトップダウン、すなわち、上から下へとなりがちです。したがって、監察が優先されると、国民から出た苦情は、政府内部の運営の改善に主に役立つことにはなりますが、これは、オンブズマンの目的とは異なっているわけです。
いま、監察について話してきましたので、これに関連して中国の監察省について、少しお話をしたいと思います。
制度的に見ますと、この監察省は権力機構のピラミッド的な序列の中に組み込まれている組織であり、その長を務める監察大臣は、国務院の委員であり、共産党でも高い地位を占めています。ですから、制度的には、オンブズマンに不可欠な特徴として、先程挙げました独立性というものは全くありません。監察省は、国民の苦情処理も行いますが、その扱いは、統制・規律といった政府内部的な視点に立ったものです。機能的視点から見ますと、中国の監察省とオンブズマンのような苦情を基に動く制度とは全く異なっています。
さて、日本の話に戻りますが、私のタイプ別分類で、日本はどこに位置するかということを考えてみましょう。日本型オンブズマンと見られている行政相談制度は、私の分類の中では、第一のタイプ、つまり、経済発展した確立した民主主義国の制度に最もよく似ていると思います。
オランダの経験
私の国オランダも、経済発展した確立された民主主義国という第一のタイプに属する国です。1982年1月1日、オランダではナショナル・オンブズマン制度が導入されました。それから18年が経ち、この制度は成熟して広く定着しております。例えば、1998年3月25日、この制度は憲法に盛り込まれるという形で、その重要性が認められました。また、ナショナル・オンブズマンは国家最高機関のひとつとなっております。
行政裁判所を補完するような権限を持つナショナル・オンブズマンは、政府から国民を守る制度の一部です。ナショナル・オンブズマンは国民に広く知られており、高度に専門的な仕事をする、権威ある、独立した、公平な機関として認められ、尊敬をされております。そのため、ナショナル・オンブズマンは幅広い信頼を集めております。政府当局は、ナショナル・オンブズマンの判断を非常に真剣に受け止め、殆どすべての場合オンブズマンの勧告に従い、政府の関係機関もオンブズマンの注意喚起などに耳を傾けます。ナショナル・オンブズマンが打ち出した適正評価基準は、政府が満たすべき良いガバナンスの基準であると広く認められております。また、ナショナル・オンブズマンの使う方法は非常に柔軟性を持っております。