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同時に、オンブズマンというのは、ある意味で脆い制度でもあるということを私どもは心に留めて置かなければなりません。まず一方で、オンブズマンは国民との関係において脆い側面を持つ存在であります。オンブズマン制度が存在していることで、この制度によって保護されることへの期待が高まります。オンブズマンがこの期待に応えられない場合、非難がオンブズマンに向けられることもあります。また、効果が挙がらなければ、オンブズマンとその制度への国民の信頼は損なわれてしまいます。

他方、オンブズマンは、その対象となる政治・行政のシステムとの関係でも常にその足元が揺らぎ得る立場にあります。オンブズマンは、政府当局を批判的な目で見て、その批判的見方を必要に応じて表明することにひるまないことが非常に重要です。しかし、いわば石を投げる立場のオンブズマン自身が、逆に石を投げられるようなガラスの家に住んでいてはどうしようもありません。

つまり、オンブズマンとそのスタッフは、プロフェッショナリズム(職業的専門中立性)の最高基準を満たさなければならないということです。オンブズマンは、政治・行政システムとのかかわりで仕事をしておりますが、自らが政治的な利害に走っている、と非難されるような行動は、決して取らないようにしなければならないのです。

そして、その在り方についての、こうした基準のすべてが満たされたとしても、オンブズマンの進む道は必ずしも平坦ではありません。調査に協力してもらえないことから、例えば、予算を承認してもらえない、といったようなあからさまな妨害まで、様々な抵抗に遭うでしょう。また、オンブズマンが批判的な態度をとったため、オンブズマンの任命担当者の不興を買ったり、政治的ライバルと見なされたりして、再任が拒否されたケースも知られています。

こうした困難にもかかわらず、西暦2000年を前にして、オンブズマンは多くの国々の組織構造の中で永続的な位置を占めるようになりました。これまでの数十年間の傾向は今後も続き、オンブズマン制度が世界のより多くの国々で整備されることは明らかです。

今、既にオンブズマンとなっている人々が直面している課題は、先ほど触れた理想にできるだけ近い政府を実現すべく努力を続けていくことです。新規に導入されたオンブズマン制度は、その位置を確かなものとする努力をし、既存のものは、新しい課題にひるまず直ちに取り組む構えを持ち、過去の反省を生かして仕事の向上を図らねばなりません。

今申し上げましたことの後半部分は、日本にも当てはまります。というのは、日本の行政相談制度が導入されたのは45年近く前だからです。その後、日本は大きく変わり、それに伴って行政相談制度も変化しております。今後も皆様が質の高い仕事をすべく努力をしていこうというお気持ちでいらっしゃることは、このような会議を開催されたということからも明らかです。

皆様が日本の国民のために、ますますご活躍をなさいますことをお祈りいたしまして、結びの言葉に代えさせて頂きます。

ご清聴どうもありがとうございました。

 

 

 

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