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こうした要素すべてにより、オンブズマンの仕事の在り方が左右され、オンブズマンに出来ることと、出来ないことが決まってきます。こうした国々でも、オンブズマンの任務は、人権を守ることです。個々の国民を対象とする古典的人権が非常に大切なのはいうまでもありません。というのは残念ながら、こうした人権を政府当局がまだ守れていないことがあるからです。しかし、厳しい貧困の中で生きる人々の多くにとって、最も大切なことは、古典的人権よりも社会的・経済的権利でしょう。そして、乏しい資源を可能な限り平等に分配させるべく努力する中で、オンブズマンの取り組みの対象となるのは、こうした様々な権利なのです。いま申し上げたような人権の侵害に関するケース以外は、オンブズマンは「不正義につながる悪い行政」のケースを扱う時間は、恐らくないでしょう。汚職のケースも同様に、人権侵害がかかわっているときのみ調査することになるでしょう。

また、オンブズマンは、政府当局に対して、国民はどういう権利を持つか、またどのようにしてそうした権利を主張できるかを人々に伝えていくという、教育的な役割もあることを最後に付け加えておきたいと思います。

 

4 経済が発展途上にある確立された民主主義国

第一のタイプとして説明した国々の状況については、私は最もよく知っていますし、第二及び第三のタイプも直接経験したことがあります。しかし、これからお話するタイプ、つまり、経済が発展途上にある確立された民主主義国については、それほど詳しくありません。この発展途上経済と民主主義の組み合わせが見られるのは、主に旧植民地で、宗主国に倣った政治体制を確立し、それをある程度まで維持している国々です。

第二次世界大戦後に独立した、このような国々は、法の支配する民主主義国として発展しなければならいという課題に直面しました。その後、そうした国々が辿った道は、発展途上国であるということと相俟って、先進的経済を持つ歴史のある民主主義国のように開かれてもおらず、多元的でもない政治体制となりました。

このタイプについて、私が「確立された民主主義国」という言葉を使いますのは、先ほど述べたタイプの、全体主義的支配の時代から最近脱した、比較的若い民主主義国と区別するためです。この第四のタイプの中で、オンブズマン制度を確立しているのは、イギリス連邦加盟国のインド、パキスタン、スリランカなどのアジア諸国やタンザニアなどのアフリカの国が挙げられます。フランスも、いくつものアフリカの国々に軌跡を残しています。例えば、セネガルには「Mediateur(調停人)」という役割が置かれています。こうした国々よりは、はるかに早く独立したメキシコもこのタイプに含まれる部分もあるかもしれません。

第三のタイプの国々の場合と同様、政治・行政の状況は、こうした国々がまだ経済的に発展途上国であるということに大きく左右されます。これらの国々は、比較的経済が発展している国に比べて政治機構の規模が大きく、したがって、より官僚的になりやすいという傾向があります。汚職が蔓延していることも多く、政府高官の外部への説明責任は、最初に挙げた、歴史ある民主主義国と比べ、制度的にそれほど強く要求されていません。

 

 

 

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