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ただし、生活水準は第一のタイプの福祉国家よりもずっと低い場合もあります。いずれにしても、こうした社会に住む人々にとって、抑圧的で国民をほぼ完全に牛耳っていた、かつての政府とは異なる体制の下で生きていくということは新しい経験なのです。

もちろん、この場合も、オンブズマンの仕事の在り方は各国の特殊事情に左右されるでしょう。こうした国々でオンブズマンが果たすべき役割は、新しい民主的な法治国家の形成に寄与することですから、オンブズマンが主に扱うのは、人権問題ということになるでしょう。しかし、かつての政府がやっていたような、古典的人権の甚だしい侵害は過去のものになりました。したがって、こうした国々の殆どでは、オンブズマンの役割は監視です。経済的・社会的に脆弱で、その分、ものとサービスの分配で政府が果たす役割の大きな国々では、オンブズマンは主に所得、社会保障、住宅、保健などにかかわる社会的権利の保護に取り組むことになるでしょう。しかし、こうした国々でも、政府の腐敗は発展途上国の場合より少ないことが普通です。ですから、オンブズマンの役割も「不正義につながる悪い行政」に関する苦情の処理が大部分を占めています。行政自体に対しては、オンブズマンは重要な教育的役割も果たしています。閉鎖的で抑圧的な体制を脱して、情報公開をし、批判に耳を傾ける姿勢のある政府へと変化していくプロセスを導いていくことがオンブズマンの仕事だからです。

 

3 経済が発展途上にある新興民主主義国

次に3番目の分類に当たる、経済が発展途上にある新興民主主義国家の話をします。

政治的変化が起こったのは、比較的豊かな国だけではありません。最貧国の一部でもそうした変化が見られました。ここでは、特にラテンアメリカの発展途上国のいくつかを見ていきたいと思います。

こうした国々では、軍事独裁と、主に警察と軍隊に代表される体制側とゲリラ勢力との間の国内の武力抗争が、長年にわたって人々を苦しめてきました。過去10年の間に、こうした国々でもオンブズマンが整備されました。中央アメリカではグアテマラとエルサルバドル、南アメリカではボリビア、コロンビア、ペルーがこうした国の例として挙げられます。また、この地域の他の国家も同じ方向に向かっていくことでしょう。こうした国々では、憲法で謳われている権利を実際に守り、名実ともに法律を実施するという大変な課題に直面しています。これらの国々の独裁体制は倒れましたが、新政府は末だ脆弱で、依然として暴力と戦わなければなりません。警察や軍は、今では法に従うことになっていますが、組織風土の変化として根づくにはは、時間と相当の努力が必要でしょう。

さらに、民主主義制度に本来備わっているチェック・アンド・バランスが、政府の力を抑制するということを、新政権が認識しない限り、未熟な民主主義は脆弱なままで在り続けることでしょう。特に発展途上国はこの点が弱いのです。経済的な繁栄が一握りのエリートに集中しているからです。こうしたエリートは、自分たちの特権の維持に努め、政府当局にもそれに協力することを期待しています。その結果、政府の上層部のみならず、薄給を補うために権力を乱用する下級役人の間にまで汚職が蔓延します。国民の多くは貧しく、最も基本的なニーズに応えるだけの資源さえ持たない政府を頼りにしています。読み書きの不自由な人の率も高く、一部の国では国民の中に先住民族も含まれています。こうした民族の多くは、女性と同じように、非常に不利な立場に置かれていることが多いのです。

 

 

 

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