このような国々は、政府当局に自らの行動を説明する責任を担わせ、法の支配に相応しいチェック・アンド・バランスを適用してきた経験を豊富にもっております。そのため、こうした国々の政府が、古典的な、第一世代の基本的権利を侵害することは殆どありません。国民は教育程度も高く、自らが政府に対してどういう権利をもっているのか、また、その権利をどのような方法で主張すればよいのかをよく理解しております。社会・経済状況は、国民がまずまずの、あるいはしばしば高度の生活水準を享受できるようなレベルのものです。その結果、社会的な第二世代の基本的権利も主張される傾向にあります。この現象は発展途上国よりも顕著であります。こうした豊かな国々では、政府内部での汚職は比較的珍しく、政府の業務と官僚の規模の間のバランスもよくとれております。ただし、民営化の流れの中で、変化も現れています。多くの場合、保健、郵便、通信、公共輸送、年金の支払いといった主要なサービスは、もはや政府の仕事ではない場合が多く、それでも、政府は、監督機関やサービス提供者として、一定の中核的業務を継続して遂行しており、行政機構は一般的に大規模となっております。
こうした要素は、すべてオンブズマンの仕事の在り方に影響を与えております。第一世代・第二世代のいずれにしても人権侵害がオンブズマンの取り組みの対象になることは、あとでお話するようなタイプの国々よりは一般的に少ないわけです。また、汚職もすぐに裁判になりますからオンブズマンの仕事の対象にはあまりなりません。むしろ、巨大で官僚的な組織とかかわっていくうちに、無力感を感じた人達からはオンブズマンの保護を求める声が多く出てきます。したがって、こうした国々では、「不正義につながる悪い行政」に当たる政府の様々な行動についての苦情を処理することが、オンブズマンの仕事の大部分を占めております。
2 経済発展した新興民主主義国
すでにお話しましたように、過去15年から20年の間、全体主義でしばしば軍事支配の時代から新しい多元的な民主主義的秩序を求め始めた国々でオンブズマン制度が整備されました。こうしたケースでは、すべて政権交代の最初の数年以内にオンブズマン機能が確立されています。オンブズマン制度は、法の支配する民主主義国家への発展に役立つ要素の一つであると考えられていたからです。
こうした国々の経済は、前政権の影響もあって、先ほど挙げた福祉国家よりは弱いかもしれませんが、発展途上国とは各段に違っています。ヨーロッパでは、右翼独裁政権打倒後のポルトガルやスペイン、さらに、最近では共産主義崩壊後のポーランドやハンガリーがこうした国々の例として挙げられています。また、ラテンアメリカの場合では、アルゼンチンがこのような国に当たります。
政治や行政面での変化によって、新しい憲法では、国民が新国家に対して主張できる権利や自由などが非常に重視されるようになりました。公民権や政治的な権利などの古典的な人権のみならず、基本的な社会・文化的権利という第二世代の人権も大きな役割を果たしています。一般的な教育水準は先ほど挙げた国々とほぼ同等です。したがって、こうした国々の状況は、私が第三のタイプに入れた、経済が発展途上にある新興民主主義国家よりもずっと良好な状態です。社会・経済状況についても同じことが言えます。