そういったときにオンブズマンの出番となるわけです。オンブズマンの主な任務は、国民の良いガバナンスへの権利を擁護することです。良いガバナンスとは、国民の基本的人権を尊重・促進し、国内法及び国際法の規範に従って行動する政府のことです。また、汚職と無縁の政府をも意味し、イギリス議会のオンブズマンの言葉を借りますと、「不正義につながる悪い行政」を防止する努力をする政府のことでもあります。
現代的な形のオンブズマンは、チェック・アンド・バランスという民主制度のひとつの要素です。この概念は、アメリカ憲法の伝統に由来しております。民主主義国家では、国民が第一となっております。民主主義とは、各個人が重要とされ、尊重される風土のことです。民主制度において、政府は自らの業務遂行の仕方について、外部、特に議会に対して説明をする責任を負っております。そのためには、開かれた政府にしておかなければなりません。
ここで、法の支配という概念に目を転じてみたいと思います。これは、政府というのは法律を作るだけではなく、自らも法律に従うものであるという考え方になります。法治国家では、政府は個人の権利を尊重し、守ることとなっております。このことは人権の場合が最もはっきりしています。法の支配があるところでは、政府の権限をどう行使するかは、伝統や政治指導者のカリスマによってではなく、法律によって決まるのです。つまり民主的な法治国家では、制限や説明責任やコントロールのない絶対権力を国家が握ることを防がなけらばなりません。
しかし、残念なことに絶対権力を国家が握った例が、数々歴史には残っております。国民が政府に信頼を置くためには、政府が行使する権力に制限を設けなければなりません。また、逆に政府が実行力を持つためには、その政府の正当性を国民に認めてもらう必要があります。
オンブズマン制度が民主的・多元的な政治制度を前提としていることを強調しておきたいと思います。同時に、オンブズマン制度は、個々のケースにおける政府当局の国民への対応の仕方を説明させることによって、民主主義の質の向上にも役立つのです。
オンブズマンと民主的な法治国家を結びつけて論じてまいりましたが、これは、何も完壁な政府のある国でしかオンブズマン制度が機能しない、ということではありません。むしろ、そうした環境ではオンブズマンは不用でしょう。ただ、こういう世界は残念ながら非現実的なユートピア、理想郷に過ぎません。
オンブズマンが適切に役割を果たそうとするならば、そのオンブズマンは自らが監視する政府機関から独立していなければなりません。というのは、監視対象の政府機関がオンブズマンに何らかの影響を与える可能性があるとすれば、そのオンブズマンは監視の任に適していないからです。
このことは、オンブズマンが単に公平な態度を持つべきであるということだけではありません。オンブズマンの独立が意味するのは、オンブズマンは他者から指示を与えられてはならず、法的地位において保護されており、その事務局ともども適切に自らの業務を遂行するため、十分な予算が与えられるということです。また、多くのオンブズマンは、自らの職権で調査を始める権限が与えられております。これもオンブズマンの独立性を表すものです。また、オンブズマンの業務の情報公開という形を通じても、こうした独立性を表すべきです。さらに、オンブズマンが効果的に任務を遂行できるように、立法府はオンブズマンに十分な法的権限を持たせるようにしなければなりません。