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田村 新次氏

私は、新聞記者として、行政監察局という役所に40年くらいかかわってきました。昭和30年代、私は新聞記者として金沢市にいましたが、その頃よく石川行政監察局に行き、しょっちゅう特ダネをいただいておりました。なぜ特ダネになるかというと、私しかそこへ取材に行かなかったからです。

私がいただいた特ダネの中で非常に印象に残るのは、白山スーパー林道のブナの原生林が残ったというネタでした。

昭和39年 (東京オリンピックの年)、林野庁が、白山の中部温泉から4キロメートルほど登ったところにある国有林 (原生林11,620本のうち3,858本が500年のブナの木)を皆伐するという計画を立てていました。このことを知った石川行政監察局は、金沢営林署に対し、皆伐中止を求めました。その後、両者の間でいろいろやり取りがあって、結局、「奥の方は切るが、白山の林道から視野に入る部分のブナの木は残す。」という、妥協が成立しました。もし、あの日に石川行政監察局が金沢営林署に対し、皆伐中止を求めていなかったら、今、ブナの木はないのです。大変なことです。それが一番大きな印象に残ったことなのです。

先程、塚本審議官から、行政相談制度の周知度が29%である、というお話がありましたが、やはりPRに何か工夫がいるのではないでしょうか。

最近見ておりますと、段々マスメディアの扱いが小さくなっているのです。大都市にある大きな新聞ほど扱いが小さいと思います。

これはやはり、一斉に記者発表をする、というようなやり方ではなく、例えば、取材のために足を運んで来た記者にだけ教えると、 (新聞記者というのは功名心が非常に高いものですから、)俺だけかということで、書き方も工夫し、これは段ものにしようとか、写真をつけてやろうとかいうことになるのです。みんな一斉に同じ発表の紙をもらって書くとみんな小さいのです。ですから、その辺を少し工夫してもっと周知度を挙げることが必要ではないかと思います。

それにまた、個人的な苦情でも、個人の域を超えて全国的な問題になり得ることがあります。例えば、ある単身赴任の人から「アパート住まいをしているのだけれど、NTTの電話帳がどさどさっと来るので困る。何とかならないか」という苦情があり、監察局で色々調べたら、東海3県プラス静岡の4県で一斉に電話帳を入れ替える時に、4トントラック4,500台分の量があるとか。そのための紙を、カナダとアメリカから買っているということで、カナダの自然保護団体から、カナダの原生林が無くなるからやめてくれ、という苦情が来たとか。問題がものすごく大きいのです。この時は、さすがに記事の扱いは大きかったのです。

 

 

 

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