日本型オンブズマン
次に、氏は、日本については、「私のタイプ別分類の中では、「日本型オンブズマン」といわれている行政相談制度は、第一のタイプ、つまり、経済発展した確立した民主主義国の制度に最もよく似ていると思う。」との位置付けをされるとともに、日本の行政相談制度について、「この制度は、国民の政府に対する苦情の処理を行う一方で、新たな苦情が出ないよう対策を取ることも重視しており、機能的な面から見ると、オンブズマンのように苦情を基に動くものであり、他方、制度的な面から見ると、…比較的自律性はあるものの、政府部内の人である行政監察局及びその出先機関の職員と、行政苦情救済推進会議や約5千人の行政相談委員のように、より外部の独立した立場の人たちが、ネットワークを形成している仕組みであることから、このネットワークの構成部分として役割を果たす組織や人々の独立性が、よりはっきりしたものになればなるほど、このシステムは、制度的な意味でもオンブズマンに近づく。」との見解を示されました。
今後の課題
この後、氏は、オランダのナショナル・オンブズマンについてご紹介をされ、最後に、オンブズマンの今後の課題についても触れられました。
その要旨は、次のとおりです。
オンブズマンは、ある意味で、脆い制度であるということを心に留めて置かなければならない。すなわち、
一方で、オンブズマンは、国民との関係において脆い側面を持つ存在である。オンブズマン制度が存在していることで、この制度によって保護されることへの期待が高まるが、オンブズマンがこの期待に応えられない場合には、非難がオンブズマンに向けられることもある。また、効果が挙がらなければ、オンブズマンとその制度への国民の信頼は損なわれてしまうのである。
他方、オンブズマンは、その対象となる政治・行政システムとの関係でも常にその足元が揺らぎ得る立場にある。オンブズマンは、政府当局を批判的な目で見て、その批判的見方を必要に応じて表明することにひるまないことが非常に重要であるが、いわば、石を投げる立場のオンブズマン自身が、逆に石を投げられるような立場になってはどうしようもない。つまり、オンブズマンとそのスタッフは、プロフェッショナリズム(職業的専門中立性)の最高基準を満たさなければならない、ということである。また、オンブズマンは政治・行政システムとのかかわりで仕事をしているが、自らが政治的な利害に走っていると非難されるような行動は、決して取らないようにしなければならないのである。
今、既にオンブズマンとなっている人々が直面している課題は、理想的な政府(その存在理由が規定するとおりに、自らの利益を追求することなく、国民と社会に仕えるという行動を取る政府)に出来るだけ近い政府を実現すべく努力を続けていくことである。日本にも当てはまることであるが、既存のものは、新しい課題にひるまず直ちに取り組む構えを持ち、過去の反省を生かして仕事の向上を図らなければならないのである。