3] 経済が発展途上にある新興民主主義国
このような国々の例としては、中央アメリカではグァテマラとエルサルバドル、南アメリカではボリビア、コロンビア、ペルーが挙げられる。
これらの国々の独裁体制は倒れたが、新政府は未だ脆弱で、依然として暴力と戦わなければならない。警察や軍は、今では法に従うことになっているが、組織風土の変化として根づくには、時間と相当の努力が必要であろう。
経済的な繁栄が一握りのエリートに集中しており、これらエリートは、自分たちの特権の維持に努め、政府当局にもそれに協力することを期待する。その結果、政府の上層部のみならず、下級役人の間にまで汚職が蔓延する。
政府当局が、まだ人権を守れていない面があることから、個々の市民を対象とする古典的人権(公民権や政治的な権利など)を守ることが、オンブズマンの非常に大切な任務であることはいうまでもないが、厳しい貧困の中で生きる人々の多くにとって、最も大切なことは、古典的人権よりも乏しい資源を可能な限り平等に分配させる社会的・経済的権利であり、オンブズマンの取り組みの対象となるのは、こうした様々な権利なのである。
このような国々のオンブズマンは、「不正義につながる悪い行政」のケースを扱う時間は、恐らくないであろう。汚職のケースも人権侵害がかかわっているときのみ調査することになるであろう。
また、オンブズマンは、政府当局に対して、国民はどういう権利を持つか、また、どのようにしてそうした権利を主張できるかを人々に伝えていくという、教育的な役割もあることを付け加えておきたい。
4] 経済が発展途上にある確立された民主主義国
このようなタイプの国々は、主に旧植民地で、宗主国に倣った政治体制を確立し、それをある程度まで維持している国々である。第二次世界大戦後に独立した、イギリス連邦加盟国のインド、パキスタン、スリランカなどのアジア諸国やタンザニアなどのアフリカの国が挙げられる。これらの国々より、はるかに早く独立したメキシコもこのタイプに含まれる部分もあるかもしれない。
3]のタイプの国々の場合と同様、政治・行政の状況は、こうした国々が、まだ経済的には発展途上国であるということに大きく左右される。これらの国々は、比較的経済が発展している国に比べて政治機構の規模が大きく、したがって、より官僚的になりやすいという傾向があり、汚職が蔓延していることも多い。
このタイプの場合も、汚職に対抗する努力にオンブズマンの時間が多く費やされるのである。オンブズマンの仕事の重要な要素は、年金などの形で支払いを行うことと関連して時には、オンブズマンが少額保障請求のための裁判所のような役割を果たすこともある。特に、裁判所がうまく機能していなかったり、未処理の事件が山積みであったり、裁判にかかる経費が一般庶民に賄えないぐらい高い国々では、こうした傾向が顕著に見られる。
ちなみに、こうした国々では、警察、諜報機関、そして場合によっては軍隊の活動の仕方や、刑務所の状況、また、政府が特定の集団を差別しているかどうかなどによって、オンブズマンが人権の分野で特別の任務を帯びることもある。