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次に、氏は、オンブズマンの具体的な任務と地位の差は、そのオンブズマンがどういう背景の下で業務を遂行しているかによって大きく左右されるとして、世界の国々を「政治と経済」の二つの要素によって、1]経済発展した確立された民主主義国家、2]経済発展した新興民主主義国家、3]経済が発展途上にある新興民主主義国家、4]経済が発展途上にある伝統的民主主義国家、という四つに分類し、それぞれの国家におけるオンブズマンの役割の相違点について説明されました。

その要旨は、次のとおりです。

 

1] 経済発展した確立された民主主義国

このような国々としては、北ヨーロッパ、西ヨーロッパ諸国そして二ュージーランド、カナダ、オーストラリア等イギリス連邦の国々を挙げることが出来る。

このような国々においては、従来の制度ではもはや国民を政府から十分保護できないという認識から、それを補完するためオンブズマン制度が整備されたものである。このような国々では、政府内部での汚職は比較的珍しい。また、民営化の流れの中で、変化も現れており、多くの場合、保健、郵便、通信、公共輸送、年金の支払いといった主要なサービスは、政府の仕事ではない場合が多いが、政府は、監督機関やサービス提供者として、一定の中核的業務を継続して遂行しており、行政機構は、一般に大規模となっている。

こうした要素は、すべてオンブズマンの仕事の在り方に影響を与えており、人権侵害がオンブズマンの取り組みの対象になることは一般的に少なく、また、汚職もすぐに裁判になるので、オンブズマンの仕事の対象にはあまりならない。むしろ、巨大で官僚的な組織とかかわっていくうちに無力感を感じた人達からは、オンブズマンの保護を求める声が多く出てくる。したがって、こうした国々では、「不正義につながる悪い行政」に当たる政府の様々な行動についての苦情を処理することが、オンブズマンの仕事の大部分を占めている。

 

2] 経済発展した新興民主主義国

このような国々としては、ヨーロッパでは、右翼独裁政権打倒後のポルトガルやスペイン、さらに、最近では共産主義崩壊後のポーランドやハンガリーが、その例として挙げられ、また、ラテンアメリカの場合では、アルゼンチンがこのような国に当たる。

こうした国々では、すべて政権交代の最初の数年以内にオンブズマン機能が確立されている。オンブズマン制度は、法の支配する民主主義国家への発展に役立つ要素の一つであると考えられていたからである。

こうした国々でオンブズマンが果たすべき役割は、新しい民主的な法治国家の形成に寄与することであるから、オンブズマンが主に扱うのは人権問題である。経済的・社会的に脆弱で、その分、ものとサービスの分配で政府が果たす役割の大きな国々では、オンブズマンは主に所得、社会保障、住宅、保健などにかかわる、社会的権利の保護に取り組むことになるが、政府の腐敗は、発展途上国の場合より少ないことが普通である。

したがって、オンブズマンの役割も「不正義につながる悪い行政」に関する苦情の処理が大部分を占めている。行政自体に対しては、閉鎖的で抑圧的な体制を脱して、情報公開をし、批判に耳を傾ける姿勢のある政府へと変化していくプロセスを導いていくことがオンブズマンの仕事である。

 

 

 

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