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それを何故、それをどうしようなどと今だに論争しているのですか。何故今だに積極的で理解し易い、全世界的な政策を確立していないのですか。

船舶通航業務を導入するには費用がかかることは、我々は皆承知しています。その費用を誰が負担するかについては今だに論争が行われています。それは、船舶とは直接の関わりは持たないが、汚染事故が発生したときに被害を受ける沿岸国なのか、或いは海域を利用する受益者なのか。これは費用が絡むこともあって面倒な問題であります。しかし、本当にそこに解決しようとする意志、特に政策的な意志があれば、解決策を見出すことは我々に出来ないことではありません。

今回のシンポジウムはVTSについてであります。しかし、新技術の利用性について発表される挑戦は、我々の産業のあらゆる面に実質的に影響を及ぼすものであります。我々は、日常生活の中の技術的な変化に余りにも慣れ過ぎてしまっているために、ともするとそれが如何にドラマチックなものであるかを忘れがちであります。我々の最大の挑戦は、如何にして変化を的確に管理し、今後数年の間に速まるであろう変化に如何に対応していくかであろうと私は考えます。それは強力なコンピューターの開発とインターネットの成長によって何が起こっているかを見るだけでも分かることであります。

我々の多くは、ここ数十年の間に急速に進歩した産業の中で育ってきました。しかし、これまでの進展は分かり易いものであり、生活のなかに取り入れられて来ました。コンテナ化の発展、VLCCなどのスーパー船の出現、そして衛星通信の導入はすべて海運界を改革するものでありました。しかし、それらは全て早い時期の技術の延長であり、数十年をかけて成熟してきたものであります。我々には調整するための時間がありましたし、少なくともある程度までは、数世紀にわたって蓄積された経験によって動いてきました。

しかし、将来もそうだとは必ずしも言い切れません。我々の前にはこれまでに前例のないような新しい概念、発明、着想が提示されることでしょう。危険なことは、商業的に得られる利益が、起こり得る危険に対して目をつぶらせることです。後になって考えてみれば分かることなのですが、roll-on/roll-offを客船が設計された時、安全性について十分な注意が払われなかったということは皆さんがお認めになることだと私は思います。その結果、何千人という人を死なせることになりました。VLCCは商業的には大成功でした。しかし、それでも海運業界に突然襲いかかる一連の大量の油漏れ事故の原因ともなっているのです。

今日、最善の努力をして急速に拡大している海運の分野には、周航船産業と高速客船があります。しかし、これらの船艇の安全を確保するためになすべき全てのことが、実際に間違いなく実施されていると言い切れるでしょうか。重大な緊急事態発生時に、近代的周航船上の全ての人が安全に避難し救助されると保証できるでしょうか。

 

 

 

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