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1984年にFriends of the EarthはIMOの航行安全小委員会に対し、彼らの意見として、海運活動において重要な国の管轄権の範囲についての問題に含まれる、VTSの法的面の論争についての報告を行いました。強制VTSの実施は、それがたとえ領海水域の範囲を越えるものであっても、安全の改善のために止むを得ない明白な必要性があれば、排除すべきではないというのが彼らの言い分でした。これは、見方によっては伝統的な海上の自由への挑戦でもありました。このことは又、船舶事故による損害に対して責任を有する沿岸国にも影響を与えました。

このことは油濁についての関心が高まっていたことから、特に重要な問題でした。1967年のトリーキャニオン(Torrey Canyon)号の事故以来、沿岸国は海岸線に沿って航行するオイル・タンカーの危険性を深刻に受け止めていました。この事を念頭において、IMO内部に幾つかの積極的な動きがありました。その中には、外国船が汚染の危険に曝される事故に直面している場合には、沿岸国に行動を起こす権限を与えるという1971年の調停協定が含まれています。それと同時に、通航分離方式及び、航行禁止区域並びにVLCCなどの大型船のための深喫水航路の設定など、その他の航行方式の導入が環境保護及び安全確保の面で取り入れられる結果となりました。

VTSはこの過程の一部であり、これによって海運はより安全になり、同時に輻輳する狭水路での油漏れの脅威を軽減するものであります。しかしながら、VTS及び船位自動通報システムの導入など関連技術の開発が、多くの要素が絡み合うことによって遅延させられていたことも疑いのない事実であります。その要素のうちの二つは、その他のものに較べてはっきりしております。その第一は、伝統的な慣習を脅かす新しい思想の採択に対する逡巡であり、いま一つは、あることが悪い方に進むことによって生ずる損害に対しての責任についての懸念であります。

このような環境の下では、進展が遅かったことは特に驚くべきことではありません。我々が変化を取り入れる基本的な理由の一つは、そしてIMOに関して言えば、主たる理由は安全性の向上であるということを無視しようとして来ました。伝統は結構です。しかし、進歩ということにおいてはそうではありません。新しい考え方というのは受け入れられるべきですが、常に安全との関わりを第一にして慎重に評価しなければなりません。若しVTSによって陸上から船舶を管制することが国際航海の安全性を向上させるのであれば、我々はそれを受け入れるべきであり、その実現を阻害する要因を解決する方法を見いだすべきであります。

我々は首を振りながら、存在するかどうか分からない困難性について話し合いを続けることは出来ないと私は信じます。我々はこの数十年、船位通報制度及び船舶通航業務が船舶と陸上間の伝統的な関係に新しい要素を導入したことを知っています。

 

 

 

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