1979年の国際海上捜索救難条約には船位通報制度の章が設けられ、1983年には船位通報制度の一般原則がIMOで採択されました。
1994年に、船位通報制度義務化の導入を可能にするためのSOLAS条約の改正が行われました。これが実際に実施されたのはイギリス海峡の西側入口で、1996年11月30日のことでした。続いて1998年12月1日にマラッカ・シンガポール海峡での船位通報制度の強制が実施されました。今では世界の他の地域でも導入されています。
1997年に船位通報制度の指針の修正が行われ、同じ年に船舶通航業務―船位通報制度とは別のものとしてですが―の義務化の導入を可能にするためにSOLAS条約の改正が行われました。この改正は1999年7月1日から発効しております。
VTSはこれまで20年以上に渉って、色々な形で我々と関わってきたのですが、これからの4日間で討議される多くの問題は、これまで色々な状況下で発生してきたものであります。最も難しい問題は船長―伝統的に海上における安全の最終責任者でありますが―と陸上におけるVTSの責任者との関係であります。基本的にはこの問題は1つの簡単な質問に帰します。つまり、VTS運用官に船長に対し如何にすべきかを告げる権限を持たせるべきか、或いは運用官の権限は単に勧告をするだけに止めるべきかということであります。この関係はこれまで本質的には勧告でありました。しかし、積極的な制御をすべきではないかという疑問も相変わらず潜在しているのであります。
20年以上も前になりますが、航海学会で発行されたNautical Review(航海展望)誌に、リバプールで開催された海上交通に関する国際シンポジウムの記事があります。ここでは所謂「論議すべき提言」として「沿岸レーダー局による誘導又は海上通航業務の管制ループによる船上の意志決定の自由の抑制、並びに乗組員の関与の軽減」について言及しています。
この提言は一部の人から船長の権限を侵すと見られたため、物議を醸すものと考えられました。あるグループでは、船舶は何処へでも行ける行動の自由の権限を持っているという「海上における自由」を侵害するものだとも見なされました。これらの原則は数世紀に渉って展開されてきたもので、これを変えることを仄めかすことは、どんな小さなことであっても、白熱した論議を呼ぶことになりました。
しかし、生じてきた疑問は、伝統を侵さないという要望によってのみ来るものではありませんでした。1980年代の初め、VTS指針が初めてIMOで審議された時、国際海上水先人協会(IMPA)の代表は、船長と水先人は確認することの出来ない情報を利用しなければならないことになるので、VTS当局はその利用によって生じた悪い結果についての責任の一端を担うべきであるという発言をしました。IMPAは、船上において時には神以外の唯一の支配者であるとされる船長、海の伝統法によってその船の安全のために必要な行動の唯一の審判官であるとされている船長は、単に陸上からの指示に従ったというだけに過ぎないのに、事故の責任を負わなければならないのかということを聞きたいということでありました。