最期の時を自宅で過ごさせてやりたいと在宅介護を覚悟した家族でしたが、刻々と症状が悪化していく患者さんを目の当たりにして揺れ動いておられました。
私は家族の不安がわかるだけに何とかしたいという気持ちになっていました。自分なら単刀直入に“どうお考えですか?”と聞いて家族に確認をとり、問題に対処していくだろうと考えました。しかし訪問看護の方は違いました。上手に情報をキャッチし、家族の気持ちを理解していく、しかし、指示を出したり誘導していくような情報を与えず、必要な援助を行っていきました。そのスタンスを常に守ることが利用者主体の在宅ケアであることを示していたのです。不安を受け入れながら家族にできることを丁寧に伝えていく姿の裏には、全てのアセスメントがされており、その上に成り立つ看護援助であることを学びました。
今回の実習で学んだのは、ホスピスの理念に基づいてチームメンバーそれぞれが患者さんとその家族の援助について考え、アセスメントしている姿でした。そのためには患者さんを尊重する細かな配慮とアセスメントを深められる知識と感性、それに何より自分の考えを言語化し、伝えていくという基本姿勢があることです。私が活動する施設にはホスピスはありません。しかし、ホスピスの理念が浸透していない場所だからこそ、このような基本姿勢を私自身が持ちつづけることが必要であることを学びました。
研修を通して学んだこと、今後の展望
S.ソンダースの概念の中に「患者を全人的にアプローチするというのは患者の病気を見つめるのではなく病気を持った人間として見つめる視点が重要」と表現されています。その点は私が今まで重要と考え、また看護のポイントと重なるところがあり、大筋このままでよいということかもしれないと感じています。しかし、モルヒネや補助薬を使った症状コントロール・コミュニケーションスキルを使った一人の人間としての対応の方法、患者さんを含めた家族を1ユニットとしてアプローチしていく方法など、まだまだこれからその技能を積み上げていくことはたくさんあります。そのためには症例一つ一つに丁寧に関わり、賛同者を募りながら皆の考えや疑問や問題点を理解し、何ができるかを一緒に考えていくところから始めたいと考えています。
共通科目で学んだ看護管理からの視点、倫理的な考え方を基礎としてリーダーシップ理論やコミュニケーションスキルを使い、今まであまり触れずにきた組織内の自分の役割を考えながら活動したいと思っています。周囲との協働なしには患者さんとその家族によい結果をもたらすことはできないこと、QOLの向上には到達できないことを学びました。自分を一つの資源として組織に利用してもらえるよう考えを言語化し、自分の周囲にある既存の資源であるカンファレンスや勉強会をきっかけにホスピスを理念に基づいた看護・医療を提示していきたいと考えています。
現在、ホスピス・PCUで亡くなられる患者さんの数は全がん患者の1〜2%と言われています。一般病棟で亡くなる方がまだまだほとんどを占めている現状を考えれば、一般病棟で行うホスピス理念の浸透や患者の全人的苦痛を考えてケアにあたる必要性は高いと考えられます。患者さんのQOL向上に向け、選択の自由を広げられるようにその間口を大きく構え、その人らしい生き方が最期まで保障されるために看護活動を通して貢献していきたいと思います。そのためには少しずつ自分の足場を固められるようこの研修の学びを生かしていきたいと思っています。
このたびは、日本看護協会認定看護師教育課程ホスピスケアコースの研修に際しまして、日本財団の補助事業によるご理解とご支援をいただきましたことを心から感謝いたします。この研修を今後の飛躍に結び付けていけますよう努力いたします。本当にありがとうございました。