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驚いたのは、私には長い時間がかかるものという固定観念があったからです。“時間ではないのだ、やる気なのだ”ということを教えられたようでした。その裏にはホスピスケアの理念に基づいて、スタッフ一人ひとりが自分のケアを行おうとしていること、また深めようと勉強していること、そしてそれを見守る立場の人の存在がありました。これらがあって初めて成り立つものであることを教えていただきました。

毎日行われているカンファレンス、週一回の勉強会ではその対象者に必要な援助は何なのかを検討し、遂行しようとする意識が流れているのをみて、これがこのホスピスのパワーになっているのだなと感じました。対象は患者さん本人だけではなく、家族に対しても同様でした。あるモルヒネを拒む患者さんに対しては、医療者の価値観を押し付けるのではなく、あくまでも患者さん自身が決める力を援助し、その人の存在そのものを支える看護・医療を行っていました。また、無口で言語によるコミュニケーションがとりづらい患者さんに対しては、それぞれのスタッフがコミュニケーションスキルを使うこと、また何が援助になるのかを掘り下げることの重要性を学びました。家族に対しても同様で、ある患者さんの息子さんが母である患者さんの死を受け入れられず苦しんでいる時、医療者自身が母を失う時はどうだろうと振り返り、自分自身の死生観やその苦しみと重ね合わせていく柔軟性と人間としての思いやりを学びました。

ホスピスケアのもう一つの全人的アプローチは、言い換えれば“個としての患者さん本来の姿を支える”ということだと思います。その重要性は自分なりにも理解していましたし、そこに近づくよう努力もしてきました。しかしなかなかうまくいきませんでした。生半可なことではそこに通じることはできなかったのです。実習をして改めて気づいたのがアセスメントの必要性と重要性でした。まず情報を得る→アセスメントする、実際に行う→アセスメントする、変更・情報交換する→アセスメントする、何もかもアセスメントにつながり、また、そこから始まっていたのです。

しかし、このアセスメントには一つ大きなポイントがありました。それは自分以外の人との協働の中から生まれるものを重要視していくアセスメント力です。もちろん、そこには自分の意見があってこその協働ですが、自分の考えだけでは患者さんの本質には迫れないのです。いろんな立場で考え、話し合い、それを統合する力こそが真のアセスメントであることを改めて発見したのです。これらの繰り返しが患者さんを全人的に捉え、最終目標である「QOLの向上を支える」のだということを学びました。そして、この実習で自分のアセスメントする力不足もさることながら、統合する力も足りないことが再確認され、今後の大きな課題となりました。

在宅では衣笠病院が母体となっている訪問看護ステーション2か所と在宅支援センターで実習させていただきました。ネットワーク力とその提供・利用者主体に行う看護援助が主な役割と聞いていましたが、実際どのように行われているかを体験したいと思いながら臨みました。必要な情報のキャッチの早さは何が看護援助であるかを知っていることにつながります。看護援助の方法が利用者側にできること、できないことを判断する力、そしてやっていただくこと自体が援助であることを知っているか否かで変わってくることを学びました。そのためにコミュニケーションスキルが必要なこと、提供できる資源を幅広く持っていることがわかり、大きな視野を持って取り組んでいることがわかりました。

私が一番感心させられたのが、施設内で働く私の考え方やアプローチと違って、問題だけを追求するのが正しい考え方ではないことでした。あるがん終末期患者さんのところに訪問する機会が与えられました。告知をされていない患者さんと家族は病名・予後ともに知らされているというお宅でした。

 

 

 

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