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そこで考えたことは、なんとか書類選考を通過して受験資格を得ること、そして、筆記試験の試験問題の傾向から現在のホスピス・緩和ケアの動向をつかむということでした。今年は受験に落ちても、学科目と試験問題から自分なりに学習の方向性を見出すことができればいいと考えたのです。ですから、運良く合格発表通知を手にした時は、大変驚き嬉しく思いました。職場の理解も得られ、上司からは「自分が試験官であれば、今はある程度分かっていて小さくまとまっている人よりも、今は未熟であってもこれからたくさんのことを学び大きくなる人、大きくなるための情熱と努力を秘めている人を合格させたいと思います。あなたが合格できたのは、今後の努力に期待するという点に対して評価されたのではないかと思います。自信を持って精一杯学んできて下さい」と励まされて、半年間の研修に臨みました。

 

研修で学んだこと

 

研修が始まって一番強く感じたことは、受講生一人ひとりのモチベーションが非常に高いということでした。今まで参加した研修では「私は上司から言われて仕方なく参加しているんです」という態度や言動の人が少なからずおりました。しかし、今回は職場を説得し、あるいはやむなく退職して、各々が大変な思いをしてこの研修にかけているため、受講生の目の輝きや言動・取り組む姿勢がまったく違っていました。これには、本当に刺激を受けました。講義中の質疑応答も活発でしたし、講義終了後に講師の先生とのディスカッション、アパートやホテルに戻ってからの受講生同志のディスカッションなど、毎日ケアについてこれほど真剣に話したことはありませんでした。これらのディスカッションから得られた知識は、私の大事な財産になっていると思います。

研修を通して一番大変であり、身に付いたことは科目ごと、講師ごとに行われた課題レポートの提出でした。今までの研修会や講演会は講義を受けるだけ、聞くだけのものがほとんどでした。これでは、その時は感動したり、新しい知識が得られたと思っても、それが自分の身になり、毎日のケアに継続して取り入れていくレベルには到達できていませんでした。今回は、講義が終了すると必ず課題が出され、これをレポートとしてまとめていく課程を通して、知識が自分のものになることを実感しました。レポートの課題は「自分がこれまで経験した困難な事例を、今回の講義で学んだ知識や論理、あるいは見方・考え方に沿って分析・考察する」「今回の講義で学んだ知識や論理、あるいは見方・考え方を、ホスピスケア認定看護師として戻った時、現在の職場でどのように発揮するかの具体策を考える」の2種類の内容が主なものでした。このレポートを仕上げるためには、講義で学んだことを文献や講師・受講生とのディスカッションを通して自分の理解できる言葉で自分自身が納得できなければなりません。その後、この内容に合う体験事例の選択、事例の提示の仕方、分析と進んでいきます。この間にも、レポートの内容と事例が合っているか、また初めて書面で事例を知ることになる講師に事例の本質が伝わるだろうかという不安から、何度も書き直しが続きました。

また、考察においても最初に考えていた結論にすんなり納まることは一度としてなく、事例の分析の過程で必ず新しい発見や気づきがありました。この気づきは、講義を受けただけでは絶対に見出せないものだけに、毎回レポートが仕上がるたびに「すごく大変だったけれど、また気づくことができて、やりとげたかいがあったなあ」と充実感でいっぱいになりました。同時に、体験事例は困難な事例であり、当時の私にとってはつらく、苦しいケア体験です。レポートの前半はこの事例に目を背けることなく正面から向き合わなくてはならず、学習の過程とはいえ苦しい作業でした。しかし、分析をして考察を終了すると必ず、当時の私には考えられなかった見方や考え方、方向性、選択肢などが見えてきました。

 

 

 

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