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実習の成果

 

私が実習を行った場所は、神奈川県の川崎市立井田病院であり、併設されている総合ケアセンターの中にある緩和ケア病棟で5週間、在宅医療部で訪問看護の実習を1週間、行いました。

緩和ケア病棟では2人の患者を受け持ち、そのうち一人は5週間にわたって関わることができ多くの学びを得ました。その患者は60代の女性で右乳がんの術後でしたが、多発性骨転移があり予後は1〜2か月と診断されていました。その患者、N氏は緩和ケア病棟にきてからまだ日が浅かったのですが、精神的に不安や孤独感がとても強い人でした。そのN氏を受け持つことを決めた理由は、緩和ケアには精神的な援助が大切ですが、自分にとってはその経験が少なく、自分自身の弱い部分であると認識していたからです。受け持った時のN氏は、昼夜を問わずナースコールが多く、家族の面会も少なく、ほとんど一人で過ごしていました。N氏の様々な行動や状況から不安が強いと判断されていましたが、N氏自身は自分の内面の思いを周囲に伝えるということはなく、自分自身を表現することを抑えていることで、不安や孤独感が強くなっていると思われました。そのようなN氏に対して、N氏自身が自分の思いや感情を表すことができるように目標をたて、N氏の側にいるケアを続けていきました。緩和ケアでは、患者に対して何かを行うのではなく、側にいることそのものがケアにつながります。このことは従来からいわれていることであり、研修中の講義の中でも何度も聞いたことでした。しかし一般病棟に勤務している私にとっては、側にいることがケアにつながるということに対してとまどいが大きく、N氏を受け持ち始めてしばらくは、本当にこのような関わり方をしていていいのだろうかと迷いながらケアをしている状態でした。しかし、N氏の変化を通して、側にいることそのものがケアにつながるのだと実感できたことは、私自身にとってとても大きな実習の成果であったと考えます。

側にいる関わりを続けたことで、N氏はある日突然、自分の感情や思いを伝えはじめ、それ以後N氏は自分自身について、疾患や予後、死についてなど多くのことを語るようになりました。実習の後半になってN氏は多発性骨転移のため、右大腿骨転子下を骨折し、臥床生活を強いられるようになりました。実習施設のチームの中では、以前のように不安が強く、閉じこもってしまう状態になるのではと懸念されましたが、N氏は骨折したことをしっかりと受けとめており、精神的な影響は少なかったようでした。

私が受け持ちはじめた頃のN氏と、実習が終了する時のN氏は、別人のように変化していました。それはN氏との関わりを通してN氏が人間としての尊厳を取りもどしたり、自尊心が高められたことによるものだと考えます。N氏との関わりを通して得た学びは、今後、自分の職場で生かしていくことができるのではないかと思っています。

N氏から多くの学びを得ることができたのは、実習施設の指導者をはじめ、スタッフの指導や協力があったからこそです。一般病棟に勤務している私にとって、緩和ケア病棟での体験は初めてであり、驚くことも多くありました。実習施設では20床のベッド数があり、すべて個室でした。スタッフは緩和ケア病棟を開設する前に、他の施設の緩和ケア病棟で長期にわたり研修を受けており、そのため開設して1年とは思えないほど、質の高いケアが行われていました。身体症状に対するアセスメント能力の高さや患者・家族の視点に立ち、QOLの向上を考えたチームにおけるディスカッションやカンファレンスを通して、看護の専門性が十分に発揮できている場所だと感じました。職場は緩和ケア病棟ではありませんが、参考になることも多く、井田病院の緩和ケア病棟で実習できたことはとてもよかったと思っています。

 

研修を通して学んだこと、今後の展望

 

半年間の研修を通して多くのことを学びましたが、一つはホスピスケアに必要な知識を得たことは大きかったといえます。

 

 

 

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