私は、初めこの患者さんの痛みを緩和するため医療者が痛みのコントロールの責任を果たさなければならないという思いが先行し、痛みを消失させることにとらわれていました。しかし、この患者さんはモルヒネに対する誤解もあり、痛みのコントロールに消極的で、なかなか痛みが緩和されませんでした。そこで繰り返してチームカンファレンスで検討し、患者さんのセルフケア能力をアセスメントし、家族や他のスタッフからも様々な情報を得る中で、私自身が患者さんの訴えやセルフケア能力を信頼できず、患者さんの痛みに対して、私の価値のもとにコントロールしようとしていたことに気づかされました。そこで、患者さんが痛みをどのように捉えているかにあらためて着目し、患者さんのセルフケア能力を信頼して痛みのマネージメント方法をともに話し合うという姿勢で接することによって、患者さん自身が主体となって疼痛をマネージメントする環境を整えることに努めました。
患者さんとの信頼関係が深まり、真実の関係ができていくことにより、患者さんは医療者との関係を通してありのままの自分自身を見つめることができ、自分の信念に基づいて納得した上で自己決定ができることを学びました。そしてさらに、そのような環境を整えることは患者さんの「自律」を支える援助にも繋がるのではないかということを学びました。
私は、ナイチンゲールの「看護婦がなすべきこと、それは自然がはたらきかけるに最も良い状態に患者をおくことである」という言葉は、本来、人は自律した存在であり、危機的な状態にあっても患者さんが自分自身と向き合い、その人が持つ潜在的な力をも発揮できるような環境を整えることが看護婦の役割である、ということを言っているのではないかと考えています。ケースをまとめるに当たってこのナイチンゲールの言葉と、現象が少しずつ自分の中で重なってきたように思います。そこに至るには、私の錆付いた頭の中を何か強い力で動かされるような痛みを感じながら、それまでの学びを統合させるためにも、この患者さんとの出会いは貴重な財産になると思っています。
また、患者さんの自律を支える援助を考えることによって、看護婦の目指すべき「自律」の意味をさらに深く考えさせられることにもなりました。これからも、継続して追求していきたいテーマであると思っています。あらためて、指導に当たってくださった衣笠病院ホスピスの畠山婦長をはじめスタッフの皆様、および研究センターの先生方に感謝の気持ちをお伝えしたいと思います。
研修で学んだこと、今後の展望
認定看護師の役割は、実践・指導・相談にあたることによって、看護現場の質の向上を図ることにあります。しかし、現場は認定看護師ということについても、ホスピスケアや緩和ケアということについてもまだ十分に理解されているとは言えない状況にあると思われます。そのような中で、ホスピスケアコースの認定看護師としての役割を果たしていくことの難しさを思い、大きな不安を感じています。しかし、21世紀の医療モデルであると言われている患者さんの価値観をできる限り尊重しようとするホスピスケアの理念を学び、私が勤務する大学病院にあっても、他のスタッフとその重要性について共感しあい、今回の学びを大いに活用できる機会があるものと思っています。そのためには、私自身が実践者としてモデルになれるように努力し、その上で現場のニーズを把握しながら概念化能力や人間関係能力を養い、活用してもらえる存在にならなければならないと思います。
まずは、所属の病棟で思いを共有し、ともに学び合える仲間作りをし、学んだ知識を共有し、深める場を作ることから始めていきたいと思っています。またそのグループを拠点として、接している患者さんのケースを通して必要な知識や技術についての情報を共有しながら、学び合える仲間を増やしていけるように努力していきたいと思っています。