そのためにも、終末期の患者さんやその家族に対する看護について専門的な学びを深めたいと思いました。一方、看護婦としての私の今後を考えた時に、大学病院の中で新卒以来継続して外科病棟に勤務し、がんの患者さんに接してきていることを自分の強みに変えていきたいという思いもあり、施設の理解もあって今回の研修を受講することになりました。
実習の成果
終末期のがん患者さんの看護について学びたいという思いから、ホスピスケアコースを選択しましたが、ホスピスに対しては馴染みも知識も乏しいことから不安もありました。しかし、私と同様に大学病院や総合病院に勤務している研修生には、終末期の看護に対して悩み、思いを共有し合える仲間がいて大変励まされました。研修は過密なスケジュールでレポートの提出に追われる毎日でした。また、日々の講義を受け、過去の事例を振り返ると、できていなかったことばかりに気づかされて、さらに無力感が大きくなり精神的に辛くなることもありました。しかし、何とか最後まで終えることができたのは、話し合える仲間達と施設の理解し支えてくれる方達、さらに出会った患者さんたちの支えがあったからだと思っています。
実習は、横須賀市にある衣笠病院ホスピスでさせていただきました。衣笠病院は病床数約300床の総合病院で、在宅看護や老人看護にも力を入れている地域に密着した施設です。ホスピスは病院の敷地内の静かな環境にあり、平成10年6月に開設されたばかりの新しい施設で、土台を築き上げている過程や地域との連携を含めて学びたいと思い、ぜひこの施設で実習したいと希望しました。実習施設の皆さんには大変温かく迎え入れていただき、ホスピスのスタッフも、緊張していた私達研修生をチームの一員として自然に受け入れて下さいました。その根底には「看護婦同士がケアし合えなければ、患者さんをケアすることはできない」という考え方があるということを聞き、この言葉の意味が日を追うごとに理解できました。
これには二つの意味があると思います。一つは、看護婦同士がケアし合い、身体的にも精神的にもいい状態になければ患者さんにとって良いケアをすることはできないということと、もう一つは看護婦同士をケアし合える力量を備えていなければ、全人的な苦痛を抱える患者さんのケアをすることはできないということだと思います。私は、実習を通してホスピスのチームの中に入れていただき、私自身が支えていただきながら、このことの大切さを学びました。さらにスタッフの方々は非常に謙虚で、熱心にホスピスケアについて学んでおり、その姿勢に大いに刺激を受けるとともに、その学習方法を学ぶことができました。特に心に残っているのは、東海大学の村田久行先生を迎えて、患者さんとの会話記録を紙面に起こしてコミュニケーションスキルを学ぶ勉強会でした。言葉はその場面ごとに消えていってしまうものですが、大いに励まされたり支えられたりする一方で、時には深く傷つけられたりするものであり、コミュニケーションスキルを追求することは大きな課題です。しかし、それは患者さんとの相互関係によりできあがっていくものであり、必要性を感じながらもその学習方法がわからず模索していました。患者さんとの場面をあらためて思い起こし、その場面に立ち返り、他のスタッフとともに言葉の意味や返し方を考える機会を重ねることによって、患者さんの言葉や「間」の中にも何かを感じ取れる感受性を磨き、それがより深く患者さんを理解することに繋がると思いました。さらにこれは、看護婦のストレスに対するサポートグループとしての役割も果たしていると思われ、大変有意義な勉強会に参加させていただくことができたと思っています。
受け持たせていただいた患者さんは、喉頭がんによる痛みがある60代の男性でした。病状を理解した上で自ら手術は受けないという治療方針を選択し、自宅で過ごしていましたが、疼痛の緩和を目的とし、生活の場としてホスピスを選択し入院してきました。