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これでは協働して活動することは困難だと思います。これは看護婦の専門性や独自の機能について、明確にしてこなかった私達にも原因があると思います。これらのことから、職場での看護についての理解を深め、看護の質の向上を目指したいと考えました。そして医師と目指す終末期医療について話し合い、パートナーシップをとってチームアプローチが実現できるようにしていきたいと思いました。

これが私の研修を希望した理由です。

 

実習の成果

 

研修の前半の講義では、ホスピスケア・緩和ケアの最前線で活躍している講師の先生方からの生の情報を聞くことができました。本で自己学習していた知識に深みができ、理論的な根拠付けもできました。

このような専門的な講義を受けた後、私は淀川キリスト教病院で実習を受けることになりました。そこでは私の職場とのいろいろな相違を感じました。設備・空間といった物理的環境の面では当然ですが、スタッフが患者の時間を中心に活動していることや、一つ一つのことに対する細やかさや配慮を感じることができました。そしてこのことが物理的環境と同じくらい重要であるということも実感しました。

症状マネージメントでは、患者は3日以上苦痛を感じることがないように、積極的な働きかけがなされていました。苦痛を早期に緩和することは、その後の時間を質の高いものとすることにつながります。苦痛を緩和した上で、その時間をどのようなものとしていくのかを患者とともに考え、作り上げていくことが大切なのだと思います。

私が関わったケースのN氏は40代の独身の男性で、治療は不可能と言われても積極的治療を望み、ホスピスに入院することを拒んでいる人でした。入院当初は看護婦に何も話さず、疼痛緩和目的で入院したにもかかわらず、疼痛が緩和される前から退院を希望していました。疼痛のために夜間の睡眠は十分に取れず、食欲もない状態で体力の低下が著明でした。

その疼痛は、神経因性のものでコントロールが困難なものであることが予測されました。早期に退院を希望されているために、できるだけ内服のコントロールが試みられました。予想通りモルヒネ製剤のみでは十分なコントロールができず、途中から鎮痛補助薬を併せて使用されるようになりました。その結果、時々発作的に激痛が出現することはありましたが、2・3日で夜間の睡眠は十分に確保できるようになりました。細やかな観察と投薬の調整という、疼痛緩和に対する積極的な取り組みがこうした短期間でのコントロールを可能にしたのだと思います。

初めの疼痛が激しい時はN氏と話すことは困難で、私はどのように接していけばよいのかわかりませんでした。そこで、まずは側にいることから始めることにしました。何も話さなくても、痛みが強い時はその部分をさすったり、疼痛が治まるまで側にいることを続けました。また、身体的な安楽は精神的な面にも影響すると考えて、足浴や手浴、マッサージを実行しました。これらのことを繰り返していくうちに、自らは話をしなかったN氏が、介助を求めてこられるといった場面が見られるようになりました。

疼痛が軽減するとN氏に笑顔が見られ、いろいろな話ができるようになりました。N氏の母親に対する思いや初めはホスピスを拒否していたこと、何故、高額のお金を費やしてまで民間療法に頼らなくてはならなかったのかという話もできるようになりました。この関わりでN氏の全人的な苦痛を理解することに一歩近づけたように感じました。そうしたN氏をより理解できたことで、N氏に合わせた退院指導や家族に対しての働きかけが可能となりました。

この実習で、私はいろいろなことを実感しました。まずは精神面や他の面のケアがいくら大切であると言われていても、身体的苦痛を緩和することができなければ困難であることです。3日以内に疼痛を緩和するという強い意志での治療が行われていたから、早期から精神面や社会面について考えていくことができるのだと思います。

 

 

 

 

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