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看護の質の向上と全人的医療の実現を目指して

 

京都府立医科大学附属病院

冨田 英津子

 

受講の動機

 

私がホスピスケアに興味を持つようになったのは、終末期患者の多かった内科に勤務していたときよりも、今の外科病棟に勤務異動になってからでした。医師は治癒を目指した積極的治療にばかり集中して、看護婦には治療・診療の介助的役割だけを求めているように見えました。このような手術患者を優先してしまう傾向となる病棟の中にも、以前ここで手術をしたからと入院してくる終末期の患者さんがいます。患者さん達は、顔見知りの医師に様々な期待を持って入院してきているのではないでしょうか。しかし、実際にはこうした患者のところに医師が訪室する回数はとても少なくなってしまいます。このような方法で貴重な最期の時を過ごしている患者を見て、「終末期のケアとはどういうものだろうか」ということを考えるようになりました。

数年前に機会があって、卒後研修で5年目の看護婦に「自分の病院で死にたいと思うか?」という質問をしたことがあります。YESと答えた人は一人もいませんでした。この結果を見て「ではどのような最期を私達は望むのだろうか。それはどうして、自分達の職場では実現していないのだろうか」と私は考えました。更に「自分でさえ入院したくないと思う病院でしている私達の今までの働きは何だったのだろうか。看護とは何なのか」ということも考えるようになりました。

そんな時、ホスピスケアや緩和ケアという言葉について知る機会を得ることができたのです。ホスピスケアのもてなしの心や理念を学んだ時、これは看護の基本となるものと共通していると感じました。そこで私はこれらをもっと知りたいと思い、セミナーや研修に参加し、学びを深めようとしました。そして学んだことは学習会や伝達講習を通して職場に広めていこうとしました。

しかし独学の内容には限界がありました。学んだことに理論的な裏づけができていないために、十分に職場のスタッフが納得できるような説明ができなかったからです。「それは理想で、現実は忙しくてそんなことはできるわけがない」という反応が返ってきました。本や資料から理想論を言うのは簡単ですが、実際に見たり体験したりしていないということで、臨床現場が求めるような内容の学習会ができていませんでした。これでは、職場に活かすことはできないと思いました。

大学病院では「ホスピスケアはできない」といった意見も聞きます。しかし、大学病院でも終末期の患者さんはたくさんいます。「できない」とされても諦めるわけにはいかないと思いました。それに大学病院は教育機関でもあります。1年目の医師や看護婦が実習や研修をするところです。ここでケアの本質ともいえる、ホスピスケア・マインドについて教育することはとても意義があることだと考えます。

私はホスピスケアについて更に学びを深め、理解した上で大学病院における終末期ケアや緩和ケアのあり方について考えていきたいと思いました。その中でも、看護についてもっと考えていきたいと思いました。今の職場では医師は看護の専門性についての理解をしておらず、前述したように「看護婦は処置の介助をすることが仕事である」と捉えている者も多くいます。

 

 

 

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