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しかし、患者さんには真実を知る権利があり、医療者が持つ情報は家族のものでなく、あくまでも患者さん本人のものです。十分な情報提供のもとで患者さんが選択し意思決定したことを尊重することは、患者さんのQOLの向上につながります。あくまでもQOLを評価するのは患者さん本人であるということを忘れず、患者さんに常に関心を持ち、その時の患者さんの思いに寄り添い、家族と一緒に支えていくことが看護の役割ではないかと思いました。

今後、自分の施設で倫理的ジレンマを感じた時は、なぜ自分がジレンマを感じているのかを論理的にチームに返し、問題を共有できればいいと考えています。

次に家族への援助です。緩和ケアの最終目標は「患者とその家族にとってできる限り良好なQOLを実現させること」とWHOで定義されています。患者さんと同じように家族もケアされるべき存在です。これまでの私は、患者さんのために家族は犠牲になっても仕方ない、と自分の価値観を押しつけてきたのだとわかりました。講義では家族の発達段階に応じた働きかけの必要性を学び、家族が直面している健康問題に対して、家族自身が主体的に対応し、問題解決し、対処し、適応していくことができるように、本来もっているセルフケア能力を高めたり、引き出したりするための援助をしていく必要性を感じました。看護者は家族の代わりになれないことを理解しつつ、家族からの支援が希薄な患者さんには満たされない心の隙間を埋めるための援助をしていく必要があると思います。

家族との関係においても、チームの中で有効に機能するためにも、自分の信念は持ちながらも相手の価値観を受け入れることのできる柔軟性が必要であることを学びました。

三つ目は実習での学びにも書きましたが、症状コントロールの重要性です。現在、緩和医療で用いられている薬剤は自分の所属する施設ではほとんどといってよいほど使用されていません。講義や実習で学んだ知識をいかに医師やスタッフに根拠をもって伝えられるかが必要になると思います。また薬剤を使用するだけでなく、マッサージやリラクセーションなどが苦痛緩和のために果たす有効性を学んだことで、常に患者のベッドサイドにいる看護婦独自の役割がわかった思いがします。

私が所属する施設は大学病院で、今後ホスピスや緩和ケア病棟ができる予定はありません。しかし、現在の日本の状況は大部分のがん患者は一般病院で死を迎えます。将来の医療従事者の教育機関である大学病院だからこそ、患者さんを一人の人間として尊重し全人的なケアを行い、尊厳のある死を迎えることができるようにならなければいけないと考えるようになりました。私がこの研修で学んだことを多くの人に伝えていくことで、状況が少しずつでも変化していけばいいと思っています。そのためにはチームをつくれるような同志を見つけることと、日々の看護実践の中で役割モデルとなっていくことが必要だと考えています。

最後になりましたが、研修で一緒に学んだ20人の仲間と、講義や実習で出会ったすべての方々との出会いは私の財産となりました。研修が終わっても、友人たちとの有意義な日々を思い出し、情報交換していくことで励まし合い、互いにがんばっていくことができると思います。

 

謝辞

 

このたびは日本財団のご支援とご理解により、大変有意義な研修を受けることができました。この研修で学んだことを臨床で少しでも発揮できるようにがんばっていきたいと思います。ありがとうございました。

 

 

 

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