日本財団 図書館


医療ソーシャルワーカーや音楽療法士といった他職種とのチームアプローチの実際を学ぶこともできました。他職種との連携は患者さんと家族にとっての可能性の拡大やQOLの向上につながることを実感しました。チームの中で私たち看護婦は、患者さんの日常生活全般にわたってケアしているため、その中でふとした時にもらした言葉が患者さんの本音である場合も多いと思います。その思いを何とかしたいと思う看護婦の感性も大切です。看護婦では対応が難しいことなら、他職種に情報を提供し、支援を求めることで患者さんと家族のQOLは向上すると思います。実習を通し、医療チーム間のコーディネーターの役割を果たすのは看護婦なのではないかと思いました。

そして、身体的苦痛の緩和に用いられる薬剤に対する理解を深めることができました。使用する薬品名はわかっていても、具体的にどのような使用のされ方をするのかつかめていなかったため、自分の中でも不安を感じていたところでした。終末期の患者さんが最初に望むことは、身体的苦痛の緩和であると思います。身体的苦痛の緩和が困難なままでは、患者さんや家族との信頼関係は築くことができません。痛みの原因は何なのか、痛みの域値を上下させる因子は何なのか、十分にアセスメントできる力がないといけないと実感しました。今の自分の知識不足を反省し、これからより深く勉強していかなければならないと痛感しました。

訪問看護実習でもフィジカルアセスメントの重要性を実感しました。訪問看護婦は一人で訪問し、判断し、その場での対応が求められます。今ある問題を解決するとともに、危機的状況発生の回避をはかる必要があります。そのため十分なフィジカルアセスメントの能力と、身体的苦痛への対応をする能力が必要です。そして「死」を身近に感じて苦悩する患者と家族への精神的な援助や社会的資源に関する幅広い知識が要求されると思いました。

実際に体験した訪問看護では、患者さんの状態を観察し、主介護者である家族から訪問までの状態の情報を収集し、介護についての指導やアドバイスを行いました。家族の健康状態も観察し、家族の労をねぎらい、励ますことが自然にされていました。患者さんだけでなく、家族も看護の対象となっていることで「患者と家族は1ユニットである」というホスピスケアの考え方が自然に実践できていると感じました。

実習を通して、東札幌病院の看護部長、副看護部長をはじめ、スタッフの方々にチームの一員として、本当に温かく迎えていただき、大変貴重な体験をすることができました。優しさやいたわりの気持ちを持ち、相手を尊重することが患者さんや家族だけでなく、すべての人に自然に行われているからこそ、チームアプローチは有効に機能しているのだと思いました。今後、自分が施設の中でうまく役割を果たしていくには、他者へのいたわりや尊重の思いは欠かせないと思いました。

 

研修を通して学んだこと、今後の展望

 

講義では日本のホスピスケア・緩和ケアの草分けともいえる先生方から、現在第一線で頑張っておられる先生方まで、大変興味深く有意義に学ぶことができました。

特に倫理に関しては看護倫理、臨床倫理、ホスピスケアにおける倫理的諸問題へのアプローチと多くの講義を受けることができました。講義を通して、今までの自分がどんなに倫理的問題に疎かったか、倫理的ジレンマを感じてもなぜチームの中で話し合っていけなかったのかを見直すことができました。

中でもインフォームド・コンセントの推進に関しては、自分の施設でも問題提起していきたいと思います。これまでの経験を振り返ると「かわいそうだから話さないほうがいい」とか「理解できないだろうから知らなくていい」など、家族や医療者の勝手な判断で患者さんに真実の情報が伝えられないことが多くあったように思います。

 

 

 

前ページ   目次へ   次ページ

 






日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION