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数々の学びを実践に生かすために

 

自治医科大学附属病院

小松崎 香

 

受講の動機

 

私は看護婦になって9年間、血液内科病棟で働いてきました。近年骨髄移植の進歩により、血液疾患患者は延命が図れ、治癒率も以前と比べると確実に高くなっています。しかし、その反面、骨髄移植を行っても再発したり、化学療法が効果なく骨髄移植まで行えない患者が少なくないのが現状です。血液疾患は抗がん剤の効果があるため、最後まで積極的な治療も可能であり、治療をしなければそこで死を迎えます。抗がん剤を使用することでしか苦痛の緩和が図れないことも多くあります。

血液疾患の特徴として、易感染状態と出血傾向があり、固形がんなら苦痛の緩和のために積極的に使用する薬剤も、血液疾患では副作用の方のリスクが高いため使用が難しくなります。そのため症状のコントロールも困難なまま、最期まで苦痛を伴う積極的な治療が行われ、苦しみながら死を迎える患者さんを多く見てきました。

比較的若年で発症することも多く、病気になったことが患者さんだけでなく、家族に与える影響の大きさも痛感してきました。経験を重ねても苦痛の緩和も満足に行えず、日常の繁雑な業務に流されて、後悔の残るケースを振り返る余裕さえない自分を感じながら日々の看護を行ってきました。

そのような中で、このホスピスケア認定看護師教育過程では、症状緩和の基本的なところから、精神的苦痛や社会的苦痛、スピリチュアルペイン、家族に対するケアまで幅広く講義が行われることを知り、興味を持ちました。自分の勤める施設ではホスピスが作られる計画等はありませんでしたが、ここで学ぶことにより今までの自分の看護に足りなかったものが見つかるのではないかと思い、受講することを決めました。

 

実習の成果

 

私は東札幌病院のPCU病棟で実習をさせていただきました。東札幌病院を希望した理由は、「ぺ一シェントからパーソンヘ」という看護部の目標にたいへん感銘を受け、その目標の中で行われている看護をぜひ体験してみたいと思ったからです。

実習が始まり、最初に感じたことは看護婦だけでなく、医療者全員の患者さんや家族に対する共通の向き合い方でした。訪室し、患者さんとコミュニケーションをとる時は必ず椅子に腰をおろすこと、一方的な言葉かけでなく、患者さんのぺ一スに合わせて会話を進めていくことに感動しました。看護業務をとってみても処置やケアなどで、その忙しさは一般病院と同じくらいです。しかし、終末期の患者が心身ともに安らぐことのできる環境を提供するには何が大切なのかがスタッフ全員に共通認識されているため、このように接することができるのではないかと思いました。

実際にそのような環境にいる患者からは「いくつもの病院を知っているけれど、ここが一番いい」という言葉が聞かれました。今までの私の経験からは考えられないほど、終末期の患者さんが自分の最期に関する意思決定(例えば自宅で死を迎えること)を表出できていました。そして、スタッフは家族を支援しながら、患者さんの意思を尊重できるように全力を尽くしていると感じました。

 

 

 

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