日本財団 図書館


この“自分が資源として活用される”すなわち専門性を発揮し、認定看護師としての役割を果たすということは具体的にはどういうことでしょうか。研修を振り返りながらもう一度考えてみたいと思います。

専門的な知識・技術については先に述べたように欠くことができないものであります。がんとの共生を始めた患者は身体的な痛みだけでなく、精神的、社会的、そしてスピリチュアルな痛みを持つと言われています。その痛みを適切にアセスメントし、その緩和のための技術を持つことは、ホスピスケアに携わる者としてなくてはならないものといえます。そしてその知識・技術を基に、看護をチーム全体で行っていけるようにしなくてはなりません。それがコミュニケーション技術を含む対人関係能力というものでしょう。

今回の実習を含めた研修で、自分の意見を伝えていくことの難しさを感じたのはたぶん私一人ではないと思います。その方法が会話であれ紙面であれ自分の考えを言語化し、正確に伝えることは容易でないことを痛感しました。日々のグループワーク、レポートにより自分の看護観を明らかにする作業を繰り返し、言語化する訓練をしているつもりでした。専門性を発揮するためには日常の看護を含め、自分の看護を概念化することが重要な技術のひとつと考えたからです。そして臨床実習においては、そこに存在する集団(医療チーム)に新たに加わることで、自分のこれまでの成果を評価するような形になりました。看護をしていく(広くは医療の提供)上でチームを構成する人々は患者のアウトカムを最大にするという点では同じ目標を抱いています。しかし、そのための方針・方略は個々に異なります。

私がどのような方針・方略をとろうとしているのかを他の構成メンバーに伝えること、そして他の構成メンバーのそれを引き出すだけの力が備わっていなかったことを、受け持った事例を通じて再認識させられました。チームに加わるときは、まずその集団のニーズ、価値を把握することから始める必要があります。これは患者・家族への看護介入でも同じことがいえます。集団あるいは個人のニーズをお互いに明確にしていく作業を怠ると、目標は私だけのものとなり偏りも出てきます。当然ながら当事者の協力を得ることは難しいでしょう。集団・個人のニーズを明確にしていくため、状況把握・分析・統合という過程をたどり、十分なコミュニケーション技術を持って行っていく必要があることを再認識しました。また、そのチームに存在する一員として、メンバーシップを発揮することはもちろんのこと、リーダーシップをとるためにはチームの特性や発達段階に合わせて放任・先導・合意型と使い分けていくことも必要なのではないかと考えました。

自分のスタイルを変容させることは容易ではありませんが、自分の強み、弱みを知ることでそれは可能になるのではないかと考えます。看護に対する自分の信念は大切にし、専門的な技術・知識を深めながら、対象に合わせて自分の強み・弱みをコントロールしていくことが今後の私の課題といえます。

なお、6か月という長期にわたりご指導くださいました看護協会研究センターの諸先生方、並びに実習施設である聖隷三方原病院ホスピス病棟・訪問看護室のスタッフの方々には多大なるご尽力をいただき、まことにありがとうございました。また、多額の助成により研修にご協力いただいた日本財団には深く感謝いたします。

今後、認定看護師教育課程ホスピスケアコース2期生として、この研修で学んだことを臨床で活かしていけるよう更なる研鑚をしていきたいと思います。

 

 

 

前ページ   目次へ   次ページ

 






日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION