ひとことで表すなら“患者の望む空間と時間を提供する”ことに最大の努力が払われているところといえるでしょう。特にホスピスは医療ではなく生活(療養)が優先されることから、ハード・ソフトの両側面から重要視されているようでした。
当施設は全室個室であり、庭に面した窓からは出入りが自由にでき、しかもその庭は四季折々の木々に触れられるようになっていました。また、各部屋はベッド以外に畳のスペースがあり、付き添いの家族や面会者がくつろげるようになっていました。このような空間的な快適さだけでなく、できるだけ個々の患者の希望にあった方法で食事や入浴、散歩が行えるように時間的な自由さを提供できるような姿勢がスタッフ間に強くありました。
これは至極当然のことにもかかわらず、一般病棟で業務・処理を優先する環境にいた私にとっては新鮮に写ったものでした。業務の繁雑さは対象が異なるのですから比較することはできません。そのためどちらが忙しいなどということはできないでしょう。しかしスタッフの意識しているもの、大切にしようとしているものに自分たちとは異なる何かを感じました。業務量や人員的な問題ではない別の問題があるように感じ取れたのです。おそらく私を含め多くの看護婦は、患者との関係性を希薄にする因子に時間的余裕のなさを上げる者が多いでしょう。否定できないことではあります。しかし、それを理由に患者の価値(患者が何を求めているか)ということから目をそらしていたように思います。それは治療や生き方に関わるように大きな出来事ばかりではなく、日々の生活の営みからいえることです。
私たちは業務を優先し、看護者の価値(優先順位)のもとで患者の日々の生活の営みが繰り返されることに慣れすぎていました。当然ですが、日々の暮らしの中で患者の価値を優先するということは、決して言うがままになることではありません。看護者が患者の日々の暮らしの中における価値を見出し、その人ができるだけ自由でいられるような時間と空間を、限られた条件下で双方の協働作業により造り上げる過程を表しています。
このように当研修施設の看護婦(士)と患者との関わりや受け持った事例を通じて、病気により身体・社会・精神的、スピリチュアルな側面での環境が狭小化される上、更に病院という環境が与える不自由さの中で暮らす患者の“自由”をどれだけ広げていけるかを考えていくことは、看護に求められる基本的であり重要なことと実感しました。
また同時に、こうした個々の患者の価値を見出し、それを尊重していくための多職種による多角的な介入の必要性も明確になってきました。これまでの臨床経験や研修により各専門分野からのチームアプローチの必要性は理解していたつもりでしたが、実習を機により明らかになったといえます。その詳細はここでは控えますが、医療チーム構成員としての看護職の役割と、患者のニーズに合わせていかにメンバーシップ・リーダーシップを発揮していくかを知る手がかりになったといえます。
研修を通して学んだこと、今後の展望
研修を通じて認定看護師の役割とは、優れた対人関係能力を持ち、専門的な知識と技術を患者・家族はもちろん、スタッフにも提供できることではないかと考えるようになりました。もちろんその前提として病院、あるいは所属部署の理念、認定看護師に求められるものを把握しておくことは必要条件といえます。これらを基に専門性を発揮するということを私なりに表すなら、医療チーム内においてコンサルテーション、コーディネーションをいかに効果的に行っていけるかということになります。つまり、臨床場面で「〜について相談したい」「〜についてやってもらいたい」というときに看護職だけではなく、患者、家族、その他の専門職から活用できる資源のひとつとして存在することです。