原点からの再出発 ―あらためて看護を見つめ直す―
菊田 雅美
受講の動機
私は看護婦として最初の3年を神経難病(脳血管障害後遺症を含む)を対象とする病棟で経験し、その後消化器外科の病棟へと配属になりました。異動の理由は、会話すらままならない神経難病患者とのやりとりと日々繰り返される生活援助に、自分が何をしているかわからなくなったからです。看護婦として業務をそつなくこなすことを覚えたその時期、私は「こんなの看護婦でなくても誰でもできる。もっと看護婦らしいことがしたい」という想いが芽生えたのです。
異動後1〜2年で業務内容が覚えられ、患者の身体的変化に予測性が持てるようになると、急性期の看護がおもしろくなってきました。手術直後の身体的変化を予測し、医師と同じように“診る”ことができるようになった自分に自信を持つようになってきたのです。救急医療への憧れがあったものですから、その想いは強かったかもしれません。しかし、そこの病棟には手術前後の患者ばかりがいたわけではありません。がんの終末期を迎え、死にゆく人々も大勢いたのです。当然そこに至るまでにはがんの再発により入退院を繰り返します。そんな人々と接していくうちに、医学的知識だけを得て自信を持ち始めた自分の無力さを感じるようになりました。
がんの進行に伴い医学的な介入が限界になると、私たち医療者はありのままの自分でその人の人生と向き合うことしかできません。しかし、これは容易なことではありません。“ありのままの自分”とは何か、それを基に看護とは何かを考える必要が出てきたのです。神経難病の病棟にいた頃の傲慢な自分も含め、これまでの自分の未熟さを見つめ直さなければならなかったのです。私はその方法として看護を理論から学び直すことを考えました。具体的には病院母体の大学の看護学部に科目履修生として、また院内の神経難病の看護研修に特別聴講生として受講することを試みました。患者ががんと共生していく過程を考えられるようになってきていた私には、これらの講義は日々行っている看護を裏づけ、それを広げることを手伝ってくれました。しかし、基礎教育の域を超えられないことからどこかで物足りなさを感じ、もっと自分の看護を深めるためには別の方法を考えなければならないと思うようになりました。
その時にこの研修を知り、受講したいと思うようになったのです。同時に“ホスピスケア”とは、終末期という時期(病期)だけではなく、すべての看護に通じるものがあるだろうと考え、看護婦という私の職業を支える力の一つになってくれるだろうという希望も抱き、受講に至りました。
実習の成果
12年間の看護婦経験はすべて大学病院という一施設しか知らない私にとって、6週間という長期に及ぶ研修は、研修の実習目的以外にも他の施設を知るという点において大変意義のあるものでした。
私の実習施設の聖隷三方原病院ホスピス病棟は、日本で最初に設立されたホスピスという歴史のあるところであり、また患者の権利を尊重することを病院全体でうたっていることから、文字通り患者中心の看護を提供する姿勢がうかがえました。