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戸田中央総合病院の在宅医療部は、緩和治療科の全面的なバックアップ体制により、終末期患者の在宅ホスピスケアを行っていました。施設内ケアばかり見ていた私にとって、かなり難しいと思われる事例であっても、希望によっては在宅ケアが可能であることを知り、患者・家族にとって選択肢を増やすためにも、在宅ホスピスケアを整備していくことの必要性を感じました。

 

5週間の施設実習は、国立療養所東京病院の緩和ケア病棟で実施させていただきました。設置母体や設立動機、病棟形式も私の勤務するホスピスとは違い、その違いが日々のケアにも現れていたように思いました。それでもはじめは違いに戸惑うことばかりで、実習施設に対してマイナス面を数え上げるようなことばかりしていたため、本来の実習目的を果たすことができなかったように思います。これは私自身のホスピス経験によって作り上げてきた価値による一面的な観察から生じたもので、経験が邪魔をした結果なのだと考えました。本来の目的である患者ケアに焦点を絞り、能力を発揮し、ケアを通じてチームに働きかけること、それによって全体の協働を理解することが大切なのだと再認識してみると、気持ちも穏やかになり、実習施設の特徴も把握できるようになりました。

 

東京病院緩和ケア病棟は、国の政策によりAIDS患者の終末期ケアを実施するために開設された病棟で、国内唯一のAIDSホスピスです。現在はHIVに対する治療薬の進歩により、AIDSを発症しても経過が長期化する傾向にあることから、がん患者が入院の70%を占めていましたが、病棟併設外来では、病棟のスタッフが多くのAIDS患者を看ていました。HIV外来は継続看護の視点から大変興味深く、参考になりました。病棟スタッフが外来を担当することで情報が行き届き入院連携がスムーズとなる、電話での相談があっても効率よい対応ができるなど、細やかな配慮が実現するシステムだと感じました。

 

東京病院では、院内転科の患者さんは主治医の変更を行っていませんでした。また看護スタッフの定期的なローテーションもあり、緩和ケア病棟が閉鎖的になることなく開かれたイメージを保てるよう工夫しているように感じました。チームスタッフが固定しないことで、価値観のマネージメントは難しく困難もあるようでしたが、このシステムを継続させていくことで病院全体が緩和ケアについての理解を深められるように思いました。私の今後の活動として、一看護単位だけではなく、施設全体の看護サービスの質向上を担う役割を果たすことを考えると、東京病院のようなホスピスと他病棟との風通しを良く保つための工夫も自施設なりに必要だと感じました。

 

研修生としての看護実践では、患者さんを通じて大きな学びがありました。緩和ケアの領域では、日常的に“共感”や“尊重”といった態度に関する言葉を使います。この言葉を実践することの難しさを痛感しました。なにげない受け持ち患者さんとの会話からの気づきでしたが、人はどんな状況にあっても自律した個性であり、手助けしたいという看護者の気持ちを押しつけてはならないことを再認識させられました。苦痛緩和の場面では、薬物治療などの手段に研修生の立場で責任が持てないこともあり、看護独自の介入に終始しました。これまで治療的な介入などの効果が明らかなものばかりを追いかける頃向にありましたが、看護独自の介入による患者さんの変化を経験して、日々の小さなさな看護の重要性に気づくことができました。

この気づきは、看護とは何かということに対する私なりの答えなのではないかと考えます。日常的な生活の援助に、専門職としての価値を見出すことができたことは、実習中の最も大きな成果だったと思います。これによって私自身の成すべきことが明らかになりました。

 

 

 

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