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看護者としての自分さがしを終えて

 

上尾甦生病院

柏谷 優子

 

受講の動機

 

日本のホスピス・緩和ケア病棟は、1990年に厚生省が『緩和ケア病棟入院料』を新設してから施設数の増加がみられるようになり、ここ2〜3年は急激な増加傾向にあります。私の勤務するホスピスは全国で7番目(1989年開設、1992年承認)に厚生省の承認を受けた施設で、比較的経験のあるホスピスだとされています。また県立がんセンターにホスピスが開設されるまでの約10年間、埼玉県内で唯一のホスピスとして注目されてきました。私はその施設で9年間の経験を積み重ねてきましたが、まだ全国的にホスピス・緩和ケア病棟が十分に整備されているとはいえない状況で、少しでも経験があるということだけで、その経験を分けて欲しいという依頼が少なくありませんでした。

ホスピスムーブメントを広げるという啓発的役割を担うことも大切だとの施設の方針もあり、経験の長いスタッフである私も院内外を問わず講師を務めてきました。このような経験は、日本のホスピスケアやパリアティブケアの現状を知って自施設を評価することの必要性を感じさせ、他施設とのネットワークを積極的に求めていくきっかけとなりました。それと同時に日本のホスピス・緩和ケア病棟全体でもケアの質向上を課題とするようになり、教育プログラムの充実について私自身が考える機会も多くなりました。

この領域で引き続き経験を重ねていくことを考えたときには、課題は一施設の中にとどまるものでなく、私自身が施設を牽引していく立場にもあり、責任は重いものがあると感じました。時に役割を放棄してしまいたくなる自分に戸惑い、その気持ちはどこからくるのかという、自分自身の足場を確認する必要があるのではないかと思ったことが、この認定看護師教育課程を受講するきっかけの一つでした。

もう一つは、経験から獲得したにすぎない知識を再確認し、理論で裏打ちすることで理解を深めてみたいということでした。6か月という時間を捻出することは、私個人としても職場としても容易なことではありません。それでもこの先々のために、看護職として自分自身のあり方を考えてみること、自施設が目指していく方向性を考えてみることは必要で、6か月の時間は自分への投資だと考えました。そしてこの教育課程を修了するときには、ホスピスでの9年間の経験が整理され、自信を持って職場に戻ることができるはずだと信じて、日々清瀬に足を運びました。

 

実習の成果

 

実習期間6週間のうち、最初の1週間は訪問看護実習でした。私は戸田中央総合病院の在宅医療部で実習させていただきました。わずか4日間ではありましたが、訪問看護の実際を見学させていただき、今後施設ケアを展開していくときの参考となりました。ホスピスという患者中心の医療が徹底して行われるシステムの中でさえ、何が患者を尊重することなのか、自己決定とは何かなどを考えていくことは難しいのが現状で、私たち医療者は日々、言動や態度に心を配ります。訪問看護ではそれが自然に行えていました。療養の場が自宅に変わるだけで、患者さんには自分の生活を送っているという余裕が生じ、訪問看護婦はその環境の中で生活することを支える努力を創造的に行っていました。環境による作用は大きなものですが、施設内ケアでも“生活する場”を創る工夫を考えたいと思いました。

 

 

 

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