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そして、患者はそのスペースで医療者の動きに絶えず気を使い、様子を窺っているような現状があります。そして私たちも、自分たちの空間に患者がいるといった高圧的な姿勢を無意識に持っていたと反省しています。三方原ホスピスのスタッフの態度は、普段の私たちにありがちなあたりまえのような態度で訪室するのではなく、そのスペースで居住している患者を脅かさないように患者のお宅を訪ねるがごとく十分に配慮していました。自分が全く持ち合わせていなかったホスピススタッフの姿勢にずいぶんと差を感じ、反省するとともにとても勉強になりました。そこには、ホスピスで働くスタッフとしての理念を個人個人が持って努力している成果が表れているのだと思いました。

このようなホスピススタッフの姿勢や態度を見習って理想的な環境のなかで、5週間患者を受け持って実習させてもらいました。研修に参加していない今までの自分だったらとてもできないような体験をさせてもらいました。それはこれまでの自分だったら、対応に難しい患者として処理してしまっていたであろう事例でした。受け持った患者は、死を前にしてスタッフや自分自身に対して、投げやりで攻撃的な態度をとっていた方です。その患者の病気や症状だけを見るのではなく、患者が体験している感情やあらゆる側面に焦点をあてて全人的に見ることによって患者をより深く理解することができました。患者の体験を理解すればその態度も当然であると予測でき、その後たどっていくであろう経過も見通しがつきました。そして、患者が体験していることに共感し、理解していることを伝えながらケアにあたった結果、患者の態度も少しずつ変化していきました。結果として、患者は医療者とも好意的にコミュニケーションが図れるようになり、自分自身についても受け入れることができるようになりました。

実習では研修で学び得た、自分に欠けていた患者の気持ちを聞くということを意識的に取り入れました。それは、私にとっては勇気のいる行動でした。なぜなら、今までのやり方とは全く違う方法をとらなければならなかったからです。患者を自分が思うあるべき姿に近づけるのではなくて、患者自身の力を助けるかたちでかかわっていくことは一見簡単そうで、重要性を感じないことのように見えます。しかし、実際は根気のいる重要なことです。死を前にした患者はこれまでの自分のあり方を揺るがされ、自分自身を保てない状態にしばしば陥ります。このことから、死を前にして不安定な心理状態になる時期を支えることは患者を人として理解することであり、それは必要不可欠なことです。これまでは患者がそのような状態にあることを理解することができず、ただ対応に難しい患者としてしか見ずに、患者を尊重する態度に欠けていたと思います。今回の実習での成果を得て、患者を理解すること、患者の気持ちを聞いていくこと、患者の意向を尊重することの重要性を実感しています。そして今ではこの部分こそが看護独自のものではないかと思っています。

緩和ケアは人権を尊重する医療であると言われていますが、実際にホスピス実習に臨むと今までの自分の看護体験について反省は多く、知識だけで理解することの限界を知りました。この経験を無駄にすることなく、今後の看護に活かしていきたいと思っています。今回の実習でこのような学びを得られたのは、三方原ホスピスの環境、出会ったスタッフや患者・家族、またこのような機会に恵まれたおかげだと思っています。

 

研修を通して学んだこと、今後の展望

 

先に述べたように、自分たちのスペースに患者がいるといったような考え方で行ってきたこれまでのケアは、患者の気持ちも理解することなく一方的で自己満足なケアだったのではないかと思います。これは、自分の看護が医学モデルへの追従となっていたことへの気づきであり、反省点でもあります。

 

 

 

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